倒木から新たな芽が出てきています

倒木から新たな芽が出てきています

前編に引き続き、南房総市で活躍するフリーランスのフジイミツコさん、井上美奈子さん、なべたゆかりさんの座談会をお届けします。地域との関わり方、今回の台風被害を通して感じた大切なことについて、お話しいただきました。
(写真:フジイミツコさん)

移住者に優しい南房総。地域の一員として災害時も協力し合う

(左から)フジイミツコさん、なべたゆかりさん、井上美奈子さん

(左から)フジイミツコさん、なべたゆかりさん、井上美奈子さん

――今回の台風のような非常時には、普段からの地域との関わりが生きてくると思いますが、皆さんの場合はいかがでしたか?移住希望の方にとって、地域の人たちとどう関わっていくかは大きな関心事のひとつではないかと思います。

フジイ:うちの場合は、お隣さんとは普段から仲良くさせていただいていて。停電の時は発電機を貸してくれて、延長コードで道路をまたいで洗濯機を繋がせてもらったり、お湯を沸かしたり。こちらは落ちた瓦の片付けを手伝ったり。仲良くしていてよかったと思います。

今回の台風をきっかけに、ご近所の新たなつながりができたり、関係が深まったりしたという話もよく聞きましたね。

井上:全体的に、南房総は移住者に優しいですよね。お年寄りが多いから、40代や50代の人が来たら、貴重な働き手として歓迎される。私の住む地域は断水期間が長く大変でしたが、親戚や近所で声を掛け合って給水所まで車に乗り合って行ったり、お年寄りに届けてあげたりということもよくありました。

移住前は東京の調布でマンション住まいでしたが、両隣の人とは引っ越しの挨拶のときにしか会いませんでした。それとは対照的な近所付き合いがここにはありますね。

フジイ:子どもがいることでつながりができやすい面はありました。子どもと一緒に地域に入っていければ、自然と関係が深まっていくと思います。

なべた:私はたまたま、今年度の地区の組長をやっていて。回覧板を回す集落単位の班長のようなものです。私の住む地区は台風被災の際孤立していたので、電気が復旧するまで毎日13時、地区の区長と組長、評議員など十数名が集まり、情報共有していました。道路の開通状況や、物資調達や被害の状況などを報告し合ったり、届いた救援物資を取りにいけないお年寄りの家に届けに行ったり。

組長はお年寄りの方も多く、道が寸断されていたりと毎日13時に集合場所に行くのも大変なのですが、ちゃんとみんな来るんですよね。すごいチームワークです。山の中の小さな集落なので、復旧は後回しになるだろうということがみんなわかっている。だからとにかく、みんなで何でも協力するんですよね。

地域の「役」もそれぞれがこなす

根こそぎひっくり返ってしまった木からも、たくましく新芽が出てきました

根こそぎひっくり返ってしまった木からも、たくましく新芽が出てきました

――そうした地区内の「役」は、移住者でもまんべんなく回ってくるものなんですか?

なべた:私は南房総内で何度も引っ越ししているのですが、最初に住んだ地域は「区費の支払いと共同作業だけ出てくれたらいいよ」という感じでした。でも、今の地区では役を断れず(笑)お年寄りの住民が多く「年だから大変だし、もうやらない」という人も増えてきていることもあって、組長のほかに水道組合の役員と農業実行委員も務めている状況です。フジイさんも組長じゃなかったですか?

フジイ:そうそう。うちの地区では「班長」というのですが、今回の台風のときは、区長さんがいきなり大量のおにぎりを持って現れて「班長さん、これ今から配ってください」なんていうことも…「ええ、今?」みたいな(笑)でも、そのことでよくしてもらっている面もありますし、やっておいてよかったかなと。

井上:人が足りないから、役が回ってきますよね。私も今年から民生委員をしています。前任の方に聞くと、一人暮らしのお年寄りの家はすべて回ったと言っていました。そういうことで、一人ひとりの顔が見える関係ができていくんですね。

なべた:先に話した13時のミーティング後、自分の組の家すべてを1軒1軒訪問していました。それを機にそれぞれの家がわかったし、「いつも悪いね」「大変な中ありがとう」と声をかけてくれる人も多くて。そうしたコミュニケーションを通して、関係が深まったと感じています。

大切なのは、人間力・生活持久力・つながり

災害を経て、それぞれが気づいたこととは

災害を経て、それぞれが気づいたこととは

――それでは最後に、今回の台風被害を通して、大切だと感じたことを教えていただけますか。

フジイ:フリーランスだからこそ、思い立ったら動けるフットワークの軽さを役立てることができると感じました。一方、こうした非常時になって、フリーランスの不安定さを感じるという声も聞きました。フリーランスにはほとんど保証がないので、特に一家の大黒柱的役割を担う男性はそう感じるようです。

井上:フリーランスという働き方も、こうした災害時も、トータルの人間力が試されると思っています。まず、フリーランスそのものが、自分自身で仕事を見つけ、自分のポジションを見つけていかなければならないですよね。

災害時は普段の生活ができなくなりますが、ままならない状況を受け入れつつ、自分を大切にしながらも、周りのために動けることが大切。どちらも、逆境を楽しめるくらいの人間力が必要です。日頃から人間力を磨いていきたいと感じました。

なべた:生活における持久力を上げなければいけないと強く思いました。まず、水の有無で生活の難度が変わります。給水所で飲み水、炊事や洗濯、お風呂用の水、そしてトイレを流す水までもらおうとすると本当に大変ですが、私の家は山の水を引いた水道を使っていたし、トイレは水がいらないコンポストトイレなので、その点はまったく困りませんでした。

ただ、ガソリン不足はかなり辛かった。連絡したり情報を得るために車移動が必要になるということがわかったので、予備のガソリンは常備しておこうと思います。さらに、今後に備えて太陽光で電気を自給できるようにしたい。今から考えて、備えておきたいと思っています。

フジイ:そしてやはり、人とのつながりでしょうか。温かい声をかけてくれたクライアントの方々、ボランティアの方々など、多くの人々の優しさに触れました。そして、ご近所やママ友、さらにはSNS上の関係など、普段のつながりがこういうときに発揮されるんだということを強く感じました。

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