広島県府中市は、福山や尾道のある広島県東部に位置しています。広島空港まで車で約1時間、福山市内までは約40分の場所で、しまなみ海道も近いので四国にも、そして山陰地方にも気軽に行くことができます。府中で有名なものといえば、府中焼き(お好み焼き)、府中味噌、府中家具などがあります。昔からものづくりが盛んな町でした。

現在府中市では、頼宗邸(よりむねてい)と呼ばれる大きな古民家を活用して町に人を呼ぼう!という計画「頼宗邸プロジェクト」が進められています。今は空き家になっている歴史ある古民家を、様々な体験行事や移住促進イベントなどで利用することで、府中に興味・関心を持ってもらおうという目的です。

産業が盛んで発展してきた府中市ですが、それでも近年の過疎化の例に漏れず、若い人は都会に出てしまっています。エネルギッシュな若者に来てもらうために、頼宗邸プロジェクトをはじめとして、今、地元の人たちが多様な提案をして動き出しているのです。

今回、そんな府中市に一週間滞在して、いろんな働き方や活動をしているおもしろい人たちを取材してきました!

地域の人たちの手を借りて、自ら改修工事をしたコーヒーショップ

近所の人が車で前を通るたび、スピードをゆるめて窓越しに店主と挨拶をするコーヒーショップが商店街の中にあります。店内でコーヒーを飲んでいると、次々と地元の人たちがやってきます。中には仕事をさぼってくる人も!

コーヒーファクトリーハイジは2013年12月に店主の小谷直正さん自ら建物の改修に着手し、まわりの人たちの手を借りながら、2015年9月にオープンしました。

近所にあるカフェ「季のむら」の松岡季絵さん(彼女も自らの手で古民家の改装をしています)やお店の前を通る人たち、そして高校生までもが手伝いに来てくれたそうです!自分たちで試行錯誤して作り上げたのがわかるようにと、カウンターの木に打った釘を塗装せずそのままにしています。

不定期で「コーヒーの淹れ方を学ぶワークショップ」も開催しています。みんなが家でコーヒーを淹れられるようになったらいい、という思いからです。いろんなところでコーヒーを飲み歩いて気付いたのが、「家で飲むコーヒーが一番おいしい。それは家族や友達など大好きな人たちと一緒に飲むから」ということだそう。そして「コーヒーを飲むということよりも、自分で作ったり手間を加えたりすることが楽しいと思える人を増やしたい」と言います。

彼はまた、フリーランスでWebコーディネートの仕事も請け負っています。ライティングから写真撮影、デザインまで幅広く一人でこなします。太鼓ユニット我龍(がりゅう)のWebデザインがフリーランスとしての最初の仕事で、他にも府中市にある会社のHPなどをデザインしています。営業もしていないのに、知り合いをたどって依頼が入ってくるそうです。

商店街の先に、平地呉服店という趣のある大きな建物があります。ここは昔は呉服店でしたが、現在はNPO会員向けの貸しスペースや、ロボット教室やライブなど多様なイベントに使われています。小谷さんはここの運営にも携わっていて、これからいろんな活用法を考えていきたいとのことです。

小谷さんは府中市出身ですが、東京の印刷インク会社に7年間勤務していました。府中に帰ってきてからは、紹介させていただいたように、既存の働き方にとらわれない働き方をしています。府中は田舎なので、町や会社のためにやりたいことは持っているけれど、やり方がわからなかったり、頼む人がいなくて困っている人たちが多いのだそうです。だからこそチャンスだと思う、と府中に住む楽しさを彼は熱弁します。

「いろんな人といろんなやり方で同じ目的に向かっている気がする。希望をもって仕事ができるような町にしたいと思っている人が多い。そしてそういう人たちがつながっているから人との距離が近い」のだと小谷さんは言います。いろいろなことをできる人、自分で考えて完結できる人、そして地域住民としっかりコミュニケーションをとれる人を町は求めているようです。

<府中の街並み>

オーガニック味噌で海外進出!そして独特の人材採用方法

府中味噌といえば、きめが細かく豊かな風味が特徴で、甘い白味噌が有名です。府中市には三軒の味噌屋さんがあり、その内の一つ、金光味噌は1872年創業の老舗ですが、40年前から海外への輸出も行っています。現在は特にオーガニック志向の海外のお客さんからの注文が多く、有機素材による味噌づくりを日本でもいち早く実践しています。

驚くのは社員の採用方法です。ペーパー試験もなければかしこまった面接もありません。入社希望者と社員ほぼ全員で標高500m程の妙見山までハイキングをし、公園でバーベキュー、そして最後に工場見学というのが今年度の採用方法でした。

「たかだか5分や10分の面接で、その人の人となりや社会人としてのスキルを判断できるわけがない。それに入社した後は他の社員に新入社員の世話をしてもらうのに、私だけで決めるのは不公平だと思って」と金光康一社長は話します。残念ながらハイキングに参加できなかった希望者とも、後日数回会う機会をつくってもらってたくさん話をしたそうです。

金光味噌のお味噌は、杉樽を使ってじっくりと時間をかけた自然発酵で作られています。海外のお客さんからは、絶対に杉樽で作ってくれ!と注文が入るそうです。というのも、杉樽で熟成されたお味噌は、プラスチックやステンレスの樽で作られたものよりも酵母菌が多く、また杉の良い香りがするのです。

日本のスーパーで売られている味噌の多くは加熱処理されているので、酵母菌が死んでしまっている状態、つまり味噌が本来もっている体調を整えたり病気を予防する機能を失ってしまっているのです。金光味噌のお味噌は熱処理をしていません。そして海外にもそのように求められるので、そのまま輸出しています。

今や海外ではオーガニックというのは当たり前で、さらにグルテンフリー(小麦などに含まれるグルテンというたんぱく質が入っていない)製品やヴィーガン(絶対菜食主義者)向けの製品が求められています。金光味噌はそういった製品にも力を入れており、毎年ドイツで開催されるビオファという世界一大きいオーガニックマーケットにも出店しています。

現在、オーガニック味噌を作っている日本の会社は多くありません。先導を切って海外に行き、日本にもそういった市場を広めていきたいと金光社長は言います。

全国から参加できる体験ツアー

東京都に株式会社Ridilover(リディラバ)という会社があります。リディラバは様々な社会問題の現場を訪れることができるスタディツアーを開催しており、府中市でもこれまで二度の受け入れをしてきました。第一回は府中家具づくりの体験、第二回は備後絣(びんごがすり)を使ったランプを作るツアーが開かれ、大盛況に終わっています。

そして第三回の開催は3/11,12に古民家のリノベーションを体験するツアーが開催されました。参加者は柿渋やベンガラ(弁柄)を実際に古民家の壁に塗ったり、炭窯で炭焼きをして完成した炭でバーベキューを楽しみました。

※ツアーは私の取材滞在後に行われたため、実際の写真がありません。そのため、事前に私が開催場所の古民家を訪れたときの写真を掲載します。

左下の写真は、この古民家が建てられた当時に塗られていたベンガラが剥げてきている様子です。ツアー参加者は実際に、屋根の内側のこの部分をきれいに塗り直したようです。また右下の写真はこの古民家の裏山にある炭窯です。こちらも実際に炭焼き体験で使われました。

このように府中では、様々な体験ができるツアーを行っています。興味のある方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

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