府中市は大きく分けると、北部の上下(じょうげ)地区と南部の府中地区からなります。これまでの記事では主に南部の府中地区についてご紹介してきましたが、今回は上下地区をご紹介します。

ロマンあふれる白壁の町並み

上下は昔、島根県にある石見銀山からの銀の集積中継地として栄えていました。幕府の天領として代官所が置かれ、もともと鉄や米の集積地でしたが、これを機に銀をはじめ様々な物資が集まるようになりました。それにつれ、上下は宿場町としても賑わい始めます。現在も商店街には白壁やなまこ壁、格子窓など歴史的な景観が残り、様々な店が並んでいた当時の賑わいを想像することができます。

上下駅から商店街に歩いていくとまず目に入ってくるのが、上下キリスト協会です。てっぺんに十字架を掲げた重厚で立派な建物が、人々を当時の世界に誘います。この建物はもともと、明治時代にその当時の財閥角倉家の蔵として建築されたものです。戦後になって、上下キリスト協会として利用されてきました。広島県文化百選に選定されている建物で、上下町のシンボル的建物の一つとなっています。

私が訪れた時期はひなまつりの時期の直前だったため、街じゅうの軒先に雛人形が飾られ、多くの人で賑わっていました。土日には上下ひなまつりのメイン行事である「でこ市」が開催され、手作り小物や地元野菜などを販売する出店がずらりと並びます。

ちなみに「でこ」とは人形のことをいいます。上下地区では昭和初期まで祝い事に人形を贈る風習があり、昔は人形市が立っていたのだそうです。そのなごりで「でこ市」というのですね。

町をあげて開催するこの行事は、大人だけでなく、地元の小学生や中学生も着物を着て歩いたり店番をしたりしています。出展者は皆、着物を着て店先で忙しそうに客を案内し、商店街を歩いていると、まるで本当に昔にタイムトリップしたかのような気分になります。地元産の野菜や、着物の生地を使った手作りのポーチ、雑貨、コロッケや府中焼きなどの出店が並び、楽しく散策ができます。

中国地方で唯一残っている木造の芝居小屋

商店街を進んだ先に、翁橋という趣ある橋があります。その橋を渡ってさらに先へ進むと、正面に翁座という芝居小屋が現れます。この建物は大正時代に建てられたもので、芝居や映画の上映などが行われる劇場でした。

現在、普段は一般見学ができないようですが、上下ひなまつりのでこ市が開催された3/4,5は見学でき、係の方が内部の説明をしてくれました。翁座は、京都の南座を真似て作られたようです。

天井は少し丸みを帯びた造りになっています。これは当時音響設備がなく役者はすべて肉声だったため、声が響きやすいように、隅がRのついた折り上げ天井につくられているのです。天井の板には屋久杉が使われています。

舞台に上がって、回り舞台や奈落も見せていただきました。奈落とは舞台の下にある床下通路のことですが、意外と高さ(深さ)があり、大人が腰を屈めることなく歩けそうな印象でした。芝居の途中、舞台袖から奈落へ降り、この通路を通って、5,6人で回り舞台を回していたのです。また花道の途中にあるすっぽん(ちいさなセリのこと)への出入りも、この奈落を通って行っていました。

二階にも自由に上がることができます。一階とは違って、劇場全体が見渡せます。客席は後ろのほうに座る人にも見やすいように、床が少し斜めになっています。

現役の役者さんが見ても、良いつくりであるという翁座。ですが現在はこのようなイベントごとに一般見学に開放する以外、ほとんど使用していないそうです。雨漏りの修繕にも数百万かけたりと、建物を維持するのに大変な費用がかかっていますが、現在、「翁座をこの町に残したい」という想いから、建物の権利を持つ方が自費で管理をされています。一般見学の際には、入場料として200円を支払い、それは管理協力費にあてられているようです。

このように立派で美しい劇場は、その歴史とともに後世に残していくべき遺産です。ですが、入場料だけでは建物の維持管理は厳しいのでは、と心配になってしまいます。実際に翁座を訪れて感動した私にできること、そしてまわりを巻き込んでできること、大切なもののために何ができるか考えていきたいと思います。

翁座が、上下の人たちだけでなく、全国の人に愛される劇場でありつづけてほしいと願います。

アマチュア作家限定!アート作品の展示販売

上下の商店街の中間地点ほどに、また立派ななまこ壁の建物が目に入ってきます。「瀬川百貨店」というのぼりをかまえたその店は、実は現在空き店舗。府中市に拠点を置くNPO法人アルバトロスは、全国で増えつつある空き家問題についての取り組みをしています。

ここ瀬川百貨店は、もともとは醤油製造所兼両替所でしたが、江戸から明治期にかけて何度も建て増しをされ、多種多様な衣料品や日用品を販売していた商店になりました。「うなぎの寝床」といわれるように、奥行きがありとても長い建物です。たしかに表からは想像もつかないほど、奥へ奥へと通路が伸びていました。

NPO法人アルバトロスはこの瀬川百貨店の建物を活用し、定期的に「アマチュア横丁」というアマチュア作家さんの作品の展示販売を行っています。上下商店街と、若い世代や上下町周辺の作家さんたちとのつながりを育てようという目的です。また、空き店舗の味わいある活用法の提案という目的もあります。

(NPO法人アルバトロスの空き家再生・活用の活動風景)

アマチュア横丁には、ハンドメイドで作品を作っているアマチュア作家であれば、無料で出店ができます。またそれ以外にも、瀬川百貨店のスペースをイベントや展示会のために、1日500円から借りることもできます。

自分の作品を見てもらうだけでなく、地域の人とも仲良くなれる貴重な場です。訪れたときにたまたまいらっしゃったアルバトロス理事長の藤原さんは、とても気さくな方で、上下のことを色々と教えてくださいました。私も機会があれば、アマチュア横丁に出店したいなぁと妄想がふくらみました。

府中での一週間の滞在を終えて

私は旅行が好きで広島市にも、尾道にも福山にも行ったことはありましたが、広島県府中市という場所は、この取材で関わるまでまったく知りませんでした。それが今回滞在してみて、いろんな人とお話をして、歴史を調べて、いろんなお店で府中焼きを食べ比べて、府中がどれほど魅力的な町かということを一日が過ぎるごとに、ひしひしと実感しました。

皆さんもぜひ行ってみてください!

府中は自然、歴史、府中焼き、味噌、家具、そしてなにより、人!私がたった一週間でここまで府中に馴染めたのも、出会ってくれた素敵な人たちのおかげです。みんなに会いに、また行きます。

 

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