女性にも家族にも人生の一大イベントとも言える「お産」。そこには家族を、命をどう捉えるかというテーマがあるように思います。お産のカタチは十人十色で当然のようですが、現代は案外選択肢が少なくなっている傾向も…。

そんな中、私(筆者)は千葉県内でも数えるほどしかない助産院でのお産を選びました。

南房総市海老敷。のどかな山間にある助産院「ねむねむ」でのお産

私が自宅から車で15分の所にある助産院「ねむねむ」で娘を出産したのは2015年4月のこと。座敷の一室で、夫に寄りかかって腕を掴みながら、新月の日、満潮へ向かう明け方に出産しました。

その朝、まだ暗いうちに目が覚めると隣には生まれたての赤い、髪が胎脂(たいし)でぺたっと顔にくっついたままの赤ちゃんが、そしてその隣には寝息を立てて寝ている夫がいました。前日の朝に陣痛が始まってから深夜の出産、そしてその後退院するまでも、終始夫と一緒にいて命を迎えられたことは、目には見えない家族の深い絆となっているような気がします。

静かな場所で、新緑の山を見たり、鶏の声を聴いたり…そして無農薬・無化学肥料の野菜がメインの丁寧なお食事(助産院と有機農家を兼業されているため)をいただいたり、赤ちゃんとの初めての時間を心からリラックスして過ごせた入院生活でした。

助産師さんが語る「お産」とは?

助産院「ねむねむ」を開業している根岸雄子さん。看護学校の実習でお産を見たときに「助産師になる」と決め、産科の病院勤めや青年海外協力隊などを経て、夫で有機農家である根岸さんの南房総への移住を機にこの地へ来ました。助産院を始められたのは今から8年前の2010年のこと。

「病院での経験はその後を決めるのに大きかったですね。薬(陣痛促進剤)をバンバン打って、赤ちゃんが産まれる準備もできていないのに、こちらの都合でお産の時間を決めていく。お産に寄り添うというよりは、医者の業務の一環として『産ませる』ような感じ。赤ちゃんや家族のペースを待って、その人が望むお産に近づけられたらと思い、助産院を開業しました。」

安全があっての安心。南房総は望むお産をしやすい所

助産院でのお産と聞いて安全面に不安を持つ人も少なくないと思いますが、その点、南房総は地理的に恵まれている、と根岸さんは言います。

「(亀田)総合病院、地域のクリニック、助産院が同じ地域内にあるのは、地方では珍しいこと。何かあったら協力できる体制ができています。実際、妊婦さんの中には、助産院でのお産は、家族との距離が近すぎてイヤ、お産の時くらい一人になりたい、という人も過去にいました。一方で、ここで産みたい!!と遠い所から通ってくる人も。どんなに本人が助産院で産みたいと望んでいても、最後は逆子だったりで安全の観点から病院等へ行かざるを得ないケースもあります。その人にとっての安心できるお産に選択肢があるのは、この地域の良い所だと思いますね。」

まとめ

とは言え、人口減少が著しい地方で、お産を生業にしていくご苦労も多いはず…。この地域で「使命感」を感じることはありますか?と最後に聞いてみました。

「『使命感』でしかないですね。病院やクリニックではできないお産、ここでのお産を望む人が一人でもいるのであれば、続けていきたいと思っています。」

私は第二子を間もなく「ねむねむ」で出産予定です。赤ちゃんの自然な「産まれたい」タイミングを楽しみに待ちながら。

 

助産院「ねむねむ」
〒294-0804 千葉県南房総市海老敷422-1
TEL:0470-36-1383
HP:http://www.e-osan.net/