都心から車で1時間半、海のイメージのある鴨川にはもう一つの顔がある。「日本の棚田百選」にも選ばれる美しい里山の景色だ。そんな里山に30年前に移住し、その地形を生かし笹谷窯を作った杉山春信さんとcafé SASAYAを営む奥さんの奈津子さん。里山のパイオニア的存在のお二人に鴨川の魅力について訊いてみた。
——café SASAYAを開いたきっかけは?
鴨川の山里深くにcafé SASAYAはある。細い山道をのぼり駐車場に車を置くと「カフェまで、さんぽ さんぷん さんぽ」の愛らしい看板が山の小道を道案内。その案内に誘われて行くと、森の木立の中に、空に伸びる蒼い笹に見え隠れしたcafé SASAYAが見えて来る。
「元々は夫婦でコーヒー好きで、子供が生まれてcaféに行くのも大変になり、うちでcaféを開こうかと、そうしたら陶芸体験に来た人にもゆっくりしてもらえる。」こうして開いた“café SASAYA”。
メニューのランチもデザートも全て笹谷窯で焼かれた器に盛り付けられ、その器に触れ楽しむことも。店内にはギャラリーのようにさりげなく春信さんの作品や奈津子さんの銀粘土作品が並び、アートな空間に。寒くなる季節には暖炉に火が灯り、その温もりと光が広がりSASAYA時間が流れる。
——なぜ鴨川、南房総に移住をされたのですか?
以前は鎌倉に住んでいた春信さんだが、「鎌倉は文化財が多く薪窯を作ることが困難で、そこで三芳村、今の南房総市に窯を作ろうと思った。」とのこと。しかし三芳村の場所は窯が出来ないことが分かり、今の場所に移動した。この土地は山に囲まれていて窯を作るには打って付けの場所。段々畑の地形を生かし、窯を30年前に作製し、“笹谷窯”をオープンした。
当時は移住者も少なく、周囲の人に受け入れて貰えるよう地域の集まりには積極的に参加し、祭りの後の会合に誘ってもらうまで頑張るなど、地域との関係を大切にして来た。しかし今は昔と違い移住者も増え、地域の理解も得られやすくなり、移住者を支えるコミュニティーの輪も増えしっかりしてきているそうだ。
——鴨川の、南房総の魅力はなんだと思いますか?
「鴨川の魅力は“変らないこと”だ。今、みんな何処もかしこも同じように便利さを求め開発され金太郎飴みたいな街ばかりに。そんな中、鴨川は昔と変らない、美しい田園風景を残している。こんな時代だからこそ“変わらない生き方が大切”なのだと思う。」
「都会の物は都会にあれば良い、鴨川は都心から一時間半ほどで来ることのできる都会のオアシスだ。」
鴨川にて独立した春信さん。「自立するためには強い意志と度胸が必要。企業に依存し生活するのは楽だが、これからは自立が大切だと思っている。」そのためにも、この里山の環境を保存し、都市のオアシスとして都会にない物を提供できる場として共存し合う関係を築くことが必要だと語る。
まとめ
「変わらない生き方が大切」。春信さんの言葉は 常に変わって行くことをよしとする、この目まぐるしい消費社会を救う希望の光のように感じた。
変わらなくてはならない、成長しなくてはならない、そんな競争社会を生きる私たちに、変わらない事の素晴らしさと、自立する事の大切さを教えてくれ、それこそが生きる道なのだと実践している、その姿に大きな勇気をもらった。
HP:笹谷窯ささやがま*café SASAYA in green & 古民家カフェ夜麦よもぎ
www.sasayagama.com/