2019年秋、2つの台風が日本列島を襲い、被災した地域はそれぞれが懸命に復興への道のりを歩んでいます。昨年のどちらの台風も、被害は都市部でも一部あったものの、多くは移住先としても人気のある地方に集中しました。
自然豊かな場所で、自分のスキルや経験を生かしてフリーランスとして働く。そうした働き方を望む人や、実際に移住する人は確実に増えています。しかし、移住先で災害に遭うという可能性について、最初から考えている人は多くないと思います。もし被災した場合、移住者ゆえの困難はあるのでしょうか。また、移住者・フリーランスだからこそできることはあるのでしょうか。
移住先として人気を集める南房総市は、2019年9月9日に上陸した台風15号により甚大な被害を受けました。このたびLOHAI編集部では、実際に被災した南房総市の移住者の方々、フリーランスの方々にお話を伺い、「移住フリーランスの災害ハック」としてまとめました。
実際に移住されている方、そして移住を検討している方にとって、無形の備えとなるお話、力づけられるお話を多くいただきました。ぜひ、参考になさってください。第1回目は前編・後編に分けて、南房総市で活躍するフリーランスのフジイミツコさん、井上美奈子さん、なべたゆかりさんの座談会をお届けします。
(写真:フジイミツコさん)
停電と断水、電話もネットも通じない状況の中で
――まず、皆さんのお仕事や移住歴などを教えていただけますか?
フジイ:3人とも、南房総の情報を発信するWebメディア『南房総ex-press』『TURN南房総』で記事を書いています。そのほかに、私はクラウドソーシングを活用してライティングや事務系の仕事をしています。移住歴は10年。夫と、小学校2年生と幼稚園年少の息子と暮らしています。
なべた:山の中の集落で、古民家の改修と稲作を行いながら猫、ヤギ、犬と暮らしています。移住歴は今年で10年目。雑誌などで記事を書くライター業のほか、地元の農家さんで季節労働も行っています。
井上:5年前に東京から移住し、夫と猫2匹と暮らしています。現在はクラウドソーシングを通じてオンラインディレクターの仕事をしているほか、自分のブログを運営したり、地元でPC個人指導や飲食店の事務なども手がけたりしています。
――さっそくですが、台風15号の被害についてお聞かせいただけますか?
フジイ:私が住んでいるのは外房の海沿いの千倉地区で、自宅には被害がなかったのですが、隣家の屋根瓦が落ちてしまい、翌日はその片付けのお手伝いをしました。停電は2日間で、短かった方だと思います。
井上:私は和田地区に住んでいて、家は海から300mほどの場所にあります。建物の被害などはそれほどない地域でしたが、停電は4日間、水も3日間止まってしまいました。停電しても電話は通じるというイメージがあったのですが、スマホはともかく固定電話も通じなくなるというのは盲点でした。固定電話も今は光回線なので、電気が止まると全部止まってしまうんですね。ゆかりさんの所は大変だったのでは?
なべた:私は丸山地区という山の中の集落に住んでいます。どこに行くにも峠を越えていかなければならないエリアなのですが、台風の後は道が倒木で塞がって通れない、電気が止まり情報がまったく入ってこず状況がわからないという、孤立状態となりました。
家は茅葺きにトタンを被せた屋根なのですが、これまでに2回、屋根一面を風で飛ばされてしまって。前回飛ばされた時にきちんと修繕したので、今回の台風では一部が飛ばされるだけで済みました。ただ、地区内ではトタンが飛ばされて萱が丸見え、という家もありましたね。
フジイ:また、内房(東京湾沿いの地域)の方は被害がすごくて、未だに屋根にブルーシートがかかっている家を目にします。
――南房総はもともと台風被害に遭いやすい地域なのでしょうか?普段の備えなどはいかがでしたか。
フジイ:海に囲まれている半島なので、台風がよく来るというイメージを持っている方もいるようですが、実はそうではなく。長くこの地に住むお年寄りも「ここ100年なかった」と。それは言い過ぎかもしれませんが(笑)、それくらい台風に関しては被害がなかったということだと思います。
ニュースなどで台風が来るという情報はもちろんありましたが、飛ばされそうなものを片付けておくとか、通常の悪天候に対応するくらいのことしか皆していなかったと思います。
なべた:確かにそうですね。窓に板を打ちつけたりとか、そういうことはしなかった。
井上:南房総は普段から風が強い地域なんですよね。移住したての頃は驚きましたが…洗濯物を外に干したら、物干し台が倒れてやり直しとか(笑)だから台風といっても、皆「ああ、普段のあの風よりちょっと強いのが来るのね」くらいの意識だったのではないかと
「紙に書いた連絡先リスト」があれば、と痛感
――停電となり、電話やネットも通じない状態が続いたそうですが、お仕事についてはどのような対応をされたのでしょうか。
井上:私はオンラインディレクターですが、この仕事は「連絡することが仕事」みたいなもので。ですから、停電した時はすぐにスマホやPCの充電量を確認して、「あと○時間で使えなくなります」とクライアントにまず連絡しました。
3日くらい経って、車で40分くらいの館山のイオンモールの充電設備が開放されていると知り、電気が復旧するまではそこからクライアントに連絡を入れていました。困ったのは、ChatWorkのアカウントしか知らない顧客がいたことでしょうか。そうした方には、PCもスマホも使えない状況では連絡手段がなく…。電話番号を知っている相手でも、スマホの電話帳に登録しているだけだと、停電し、充電が尽きたら確認しようがない。顧客の連絡先は複数、紙に書いて持っておかなければと思いました。
フジイ:なぜか、ガラケーは通話できたんですよね。それで各所に連絡を入れることはできましたが、仕事は10日間くらいストップしました。やはり自宅やご近所の片付けのほか、地域のためにできることをしたかったので…たまたま、締め切り間近の仕事がなかったのも幸いでした。
なべた:クライアントへの連絡は、車で電波が入る所に行ってしていました。館山など、早く電気が復旧した地域の知人たちが「仕事しに来ていいよ」「電気使いに来ていいよ」と声をかけてくれましたが、他の地域に行ってPCを開いて仕事をする、という気持ちにはなかなかなれませんでした。住んでいる地区でやらなければならないこともたくさんあって。幸い、クライアントの方々は仕事が落ち着くまで待つと皆さん言ってくださり、地区の仕事を優先させてもらうことができました。
フリーランスだからこそ、助けが必要な場所にすぐ行ける
――クライアントの方々の温かい声は、皆さんが普段から真摯にお仕事に取り組まれているからこそだと感じました。フリーランスでよかった、フリーランスだからこそできた、ということもありそうですね。
井上:個人的には、こうした時にフリーランスでよかったと思いました。
会社員だと、自宅やご近所に被害があったとしても、行ける状況ならやはり会社に行きますよね。職場の片付けとか取引先への連絡とか、いろいろあるはずですから。そうした勤め先のこともしながら、コインランドリーに行ったり給水に行ったりなど、家のこともしなければならない。
でも、フリーランスなら自分で時間の采配ができます。仕事と被災のケアとのバランスも、自分で考えてやっていける。ご近所に助けが必要なときでも、身軽に動けますしね。
なべた:会社員もそうですが、市の職員や自衛隊の方なんかはさらに大変ですよね。旦那さんが自衛隊員で全然帰って来られなくて、男手がなくて困った奥さんを、逆に近所の方やボランティアがケアしているということもありました。
フジイ:クライアントの温かい声に甘えて、仕事の調整をお願いしてボランティアに行くことができました。ボランティアセンターに行くと、九州など遠くからもたくさん来てくださっていて、本当に感激しました。ボランティアにはフリーランスの方も多かったですし、東京などと南房総との二拠点居住をしているような方も、多く支援活動をしてくださっていました。こうした災害時のボランティアも、フリーランスのような人の方がすぐに動いて参加できるように感じます。
(後編に続く)