d7ae723035b6c98ab92becfde4bad475-660x440ゲストハウス前で筆者とオーナー

時々自分が好きな場所に行って仕事をするのが好きだ。気分転換になるし、仕事に集中できる。それに民宿経営やグランピング事業をやっているので、あちこち行くことが勉強になるということもある。だから富山県南砺市での『さすらいワーク』について聞いた時、へえ面白いと思った。地方に滞在して仕事をしつつ、地域との関わりも持てるような仕組み。普段行くのは北海道や南の島だけど、帰る場所はいくつあってもいい。北陸も行ってみたかったので即決した。

ただ、即決したものの南砺市とはそもそも読めないし、どこにあるのか・・・。その時点では町のことを何も知らなかった。さすがにwifi環境があるのだけは確認したけれども、もっと調べなきゃ。フリーランスとしては費用がかかる以上、それに見合った環境で過ごしたいし、成果を残したい。そこで下調べをしたところ、南砺市には自分がさすらう場所に求めるものがありそうなことが分かった。よかったー。面白くなりそう!

お隣石川県の金沢駅からレンタカーで40分。ふらっと行った南砺市はこんな場所だった。

南砺市井波地区の八日町通り。木彫の工房がずらっと並ぶ。

さすらう場所に求める7つのもの

さすらう場所には何があって欲しいだろう。私が個人的に求めるのは次の7つ。

1.高速インターネット
2.コスパの良いお宿
3.五感を潤してくれるもの
4.ふらっと行けること
5.地域で活躍されている人との出会い
6.自分の知らない世界がある
7.自分のビジネスへのつながり

1の高速インターネットは言わずもがな。これなしでは仕事になりません。地方に行くときは常に若干不安なのだけど、南砺市では全く問題なし。町周辺ではずっと4G入っていたし、泊まった宿にもwifi環境があったので、仕事するのに困らなかった。

そんなに安くていいんですか?移住体験ハウスが十分すぎる件。

03移住体験ハウス 城端体験ハウス

ネットの次に大事なのは泊まるところ。一定期間滞在するとなると出費はなるべく抑えたいですよね。今回は南砺市が提供している移住体験ハウスに泊まれるということで、事前に申し込んでおいた。なんと、1泊たったの1,000円!安すぎでしょ! 移住体験ハウスは市内に3カ所。これまでは移住を検討している人のみ利用可能だったけど、『さすらいワーク』参加者も利用可能に。そのおかげで体験ハウスの稼働率が10倍以上となったとのこと! 今回私が泊まったのは南砺市城端(じょうはな)地区にある物件。もともとお医者さんが住んでいたそうで、応接室まで備えた3LDKの綺麗なお家。スーパーやコンビニ、カフェも鉄道駅も徒歩圏内にあって生活には困らなさそう。

04移住体験ハウスコラージュ1

05移住体験ハウスコラージュ2

生活用品も完備。地元の住人のように生活ができます。これで1泊1,000円は十分すぎる。車で10分くらい行けば温泉施設も。わたしは今回短期滞在だったけど、これであればお財布に優しく、数週間じっくり滞在できますね。ありがたい。

06城端の町並み 明治時代の土蔵群。古い町並みが残る城端。

実は、城端に滞在したのは訪問3日目。最初に滞在していた井波地区とは全然雰囲気が違った。それもそのはず。南砺市は平成の大合併で8つの町村が合併して誕生した市。だから多様な魅力が集まっている。

心安らぐ風景も温泉も。足を伸ばせば見つかるお気に入りの場所。

お気に入りの場所があるっていい。ちょっと仕事で煮詰まったら深呼吸しに行く場所。五感を潤してくれる場所。それは景色がいい場所や温泉、あるいは美味しいものがあるお店かもしれない。そういう場所があることは譲れないポイント。
南砺市にもあるかな、どうかなと思っていたけど・・・あっけなく見つかった!

到着した日の夕方、南砺市役所『南砺で暮らしません課』の富田さんにご挨拶に行った。いくつか受け取ったガイドブックの一つの最初のページにあった、はっとするような美しい風景。どうしても同じ景色が見てみたい。山の方にある閑乗寺公園に行けば似た景色が見えるらしい。毎夕、仕事の合間にその場所へ車を走らせた。ずっと天気がイマイチで夕日は見られなかったけど、懐かしくて新しい、そんな風景だった。また行きたいなあ。

07ガイドブックの中の風景 心惹かれた風景。『富山県南砺市定住促進ガイドブック』より。

08閑乗寺公園からの風景 実際に見た閑乗寺公園からの風景。

そして何と言っても五箇山。有名な白川郷とともに世界遺産となっている合掌造りの里。井波地区や城端地区から車で20-30分。五箇山の菅沼集落はまさに五感潤う場所だった。水が流れる音、心地よい風、虫の声。まんが日本昔話的な風景の中でのステキな時間。

09合掌造りの里 秋の合掌造りの里。

10合掌造りの里-水 水の音に癒された。五感を潤す特別な時間。

車で10分も行けば温泉もある。教えてもらったのがワンコインで入れる炭酸泉の秘湯。基本、教えてもらったら行く。とても見つけにくいところにあったけど、これはすごかった・・・! 湯谷温泉というところです。どんなところかは行ってのお楽しみ。

11温泉入口 長い長い薄暗い廊下を行った先に現れたこれ。引き返そうかと思った・・・

12白海老 日本酒に白エビとホタルイカの黒作り。豊かだなあ。

名前も知らなかった土地にこんなに五感を潤してくれる場所があるなんて!1日1つ、地域の宝探しをするのもいいかもしれません。そういうのを発信することが地域のためになる。

地域との関わり度合いは自分次第。自分なりの距離感で。

『さすらいワーク』に参加する前に少し気になっていたことがあった。それは受け入れ自治体の体制と距離感。今回は仕事が立て込んでいたこともあり、予定を入れずふらっと行って、気ままに動きたかった。だから、移住関係や地域お手伝いのプログラムを強くオススメされないか心配だったのだ。もともと地方に関する仕事をしていたこともあり、善意が重くなることがあることを見てきたので余計に。

ところが全然そんなことなかった!『南砺で暮らしません課』担当の富田さんはとても親切な方。必要なフォローはしていただいたけど、それ以上のことはこちらから希望があればというスタンス。移住希望者と『さすらいワーク』参加者は分けて考えていらっしゃるようだ。必要な時はきっと窓口になってくれるはず。

外国からもここを目指して人が来る!オシャレ宿のオーナーさん。

せっかく『さすらいワーク』という仕組みがあるのだから、地域で活躍されている方と出会いたい。どんな地域なのか、何に取り組んでいるのか話を聞きたい。一度行ったからにはこの場所がこの先何回もさすらう場所になればいい。そのためには人とのつながりがある方が、また訪れたくなるんじゃないか。

出発前にそう思っていたところ、イケてるゲストハウスをやっている夫婦がいるらしいと聞いた。その名もBED AND CRAFT 『TATEGU-YA』。そこに泊まってみることにした。

13建具屋のれん BED AND CRAFT 『TATEGU-YA』

その宿は井波の中心街にあるもともと建具屋だった家を改装したもの。田舎町で圧倒的なおしゃれ感を出している。とはいえ、その雰囲気のせいか風景に馴染んでいて浮いた感じではない。一回気づかずに通り過ぎてしまったくらい。

到着すると間も無くオーナーの山川ご夫妻もご到着。ともに一級建築士というお二人。とても気さくです!早速中を案内していただきました。

14建具屋廊下15建具屋リビング

16建具屋照明17建具屋コラージュ

今年9月にオープンしたばかりということで、おしゃれなのはもちろん、とても綺麗。随所に散りばめられたこだわり。建具屋時代の工具などの昔からあるものと、木彫り彫刻などの地元のものが目に付きます。

夜にはご飯をご一緒させてもらい、色々とお話を伺った。地元ご出身の方々かと思いきや、お二人とも市外の出身。住み始めたのはなんとたったの1年前。旦那さんの山川共智嗣さんのご親戚が南砺市に住んでいたという縁があったよう。

宿を始めたきっかけも聞いてみた。南砺市に観光で来ても、数時間で帰ってしまう。せっかく多くの見所がある町なのに。そもそも泊まるところすらない。という問題意識から始まり、じゃあまず泊まるところを作る。そしてそこを拠点として、木彫りの工房をはじめとした地元のものとつないでいきたかった。今ではこの宿に泊まりたいがためだけに、海外から来るゲストも後を立たないとか。

・・・まじすか。かっけー。

同じ宿泊施設を経営する者として、そのスピード感、行動力、思い、大変勉強になった。自分の事業に直結するような学びがあるところには、また来たくなる。今後もゲストハウスを増やしていくそうで、ぜひまた泊まりたい。

18建具屋オーナー夫妻 山川さつきさん・智嗣さんご夫妻。

職人さんと語らい、無心で木を彫る時間。

職人さんとお話しできて、工房で作業するなんていう経験はなかなかできない。それと、時々仕事とは全然違う作業を集中してやることで、仕事でもより集中できるようになると思っている。そんなわけで木彫の町である井波で木彫のスプーン作りに挑戦することに!山川さんに木彫と漆の工房、トモル工房の田中孝明さんを紹介いただいた。田中さんは『TATEGU-YA』に置いてある木彫彫刻の作者。とてもなめらかで生きてるみたい。

職人さんのイメージって、完全なステレオタイプだけど頑固おやじ。なので、工房に行って、自分と同い年くらいの物腰の柔らかそうな田中さんが出てきたときはびっくりした。工房には色んな道具があって、秘密基地みたいでワクワク感すごい。こういうところで毎日作業してるんだなあ、と職人さんの気分を味わいながら作業。彫り方を丁寧に教えていただきながら無心になってスプーンを彫る。

19工房筆者

田中さんとお話して思ったのが、持つ技は違えど職人さんも意外と普通の人。年齢が近いせいもあるかもしれない。子供の頃は似たような遊びをして、今は経営者として雑務も全部自分でやらなくてはいけなくて、など共感ポイント多数。一方で、木彫業界の話や、田中さんが弟子時代に、別な仕事もしてみようと思って1年間バイトをした話など、自分の知らない世界は面白い。自分の頭や気持ちも豊かになるようで心地よい。

20工房田中さん

できあがったスプーンは田中さんに褒めてもらえて嬉しい!

自分とは違う専門、例えばデザイン・芸術系の方と一緒に仕事をしていて切羽つまってくると、ここにそんなに時間と工数かける必要あるのかなって思い始めるときがある。最終的にはちゃんとやって、そして結果的に満足行くものができる。そういうことがあって、自分の仕事でも常に「神は細部に宿る」っていうことをより意識するようになった。だから、木彫彫刻でも手を抜かないことで、自分の仕事も良くなるって信じている。

21工房道具

こういう伝統工芸の工房に一年に一回毎年同じ時期に通って、集中してもの作ったり、学んだり、修行したり、そんな『さすらいワーク』もいいかもね。

ふらっと行ったら、また行ってみたくなった。

さて、南砺市で実際に過ごしてみて、私がさすらう場所に求める7つのもののうち、6つは南砺市で見つけることができた。

7つ目の「自分のビジネスへのつながり」というのは、簡単に言えば、その土地で仕事をして稼げること。金銭じゃなくても野菜をもらうとか。それが無理なく継続して地域に関われる形だと思う。今回はそこまではできなかったのでこの記事では割愛。

「アイディアは移動距離に比例する。」僕の好きな高城剛さんがよく言う言葉だ。はるばる南砺市まで行って、滞在した3泊4日。ふらっと行ったわりには期待していた以上に色々な体験ができ、仕事につながる学びや感性を得ることができたと思う。昔ながらの町並みや伝統工芸。五感を潤してくれる風景。町の未来を作る人たち。

働く場所が自由だからといって、フリーランスの人が必ずしもあちこち行って仕事をしたいかは分からない。多くのフリーランスにとって、長期的に稼げるようになることが一番の目標なのではないか。そのために様々な体験を通して人として成長すること、仕事力を上げることが一つの道だろう。わたしは南砺市でそういう体験ができた。興味がある人はあまり構えずにふらっと行ってみたらどうだろう?また行きたくなるような体験ができるかもしれませんよ。

22スプーン

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