フリーランスのもっと自由な働き方を探しに、自然豊かでのどかな町、富山県南砺(なんと)市へ3泊4日のさすらいワークに訪れた筆者、フリーライターの千葉こころ。初日の夜に催された歓迎会で南砺市が抱える問題を耳にし、フリーランスらしい“もっと自由な働きかた”のヒントを発見…というのがここまで のあらすじ。
南砺市には若者の力を必要とする場がたくさんある。そんな場へ力を貸し、空いた時間で本来のフリーランス業務を遂行する。お世話になっている地域へ貢献しながら大自然の中でのびのびとライター業をするというのは、「働く場所にとらわれない」フリーランスならではの新しい働きかたになるのでは…? と思ったわけ。
滞在2日目は昨夜の歓迎会でお声かけくださった渡辺さんの畑へ出向き、人手不足の仕事状況をお聞きすることにした。
体力自慢は引く手数多!? 農作業でさすらいワーク
渡辺さんは渓流釣り名人の綱川さんとともに、1ヘクタールの田畑で無農薬の米と枝豆を栽培している。
渡辺さん「以前ここを所有していた知人が亡くなってあとを継いだんだけど、僕ももう先が長くないからねぇ(笑)。若い人がきてくれたら、この田畑そのまま譲るんだけどなぁ」
千葉「田畑譲るって・・・。それ、気前よすぎでは!」
イノシシ除けの電流線に囲まれた広い田畑。「譲る」という気前のいい言葉にびっくりしたが、話を聞けば聞くほど、農業を続けるのは想像以上に大変なことがわかる。田植えや収穫以外にも、田んぼの石取りや雑草抜き、害虫の駆除など、一年中やることはいっぱいあるそうだ。
しかも無農薬での栽培は、普通の作業以上に手間ひまがかかる。アクティブに見える渡辺さんでも、体力的にきつく感じることは少なくないそう。
渡辺さん「ここの集落は4軒しか民家がなくて、そのうちの3軒は70~80代の世帯。あとを継げる人がいなくて放置されている畑がたくさんあるんだ」
千葉「それでわざわざ渡辺さんが通ってらっしゃるんですね」
渡辺さん「そう。でも1ヘクタールが精一杯。それに、南砺市は集落が点在していて、どこも同じような感じなのよ」
千葉「手つかずの畑がここ以外にもたくさんあるんですか?」
渡辺「若い人が少ないから、仕方がないよね」
そして畑や自宅近くでも栽培している野菜は、「たくさん採れても食べきらんからね」と、無人直売場を設けて販売。キュウリやトマト、ズッキーニなどの新鮮野菜がどれも100円! 都内ではあり得ない価格・・・。
今朝、畑で収穫した枝豆もここで販売するというけど、葉っぱを切り落としてまとめる作業は、収穫量の多い日だと半日近くかかることもあるとのこと。そこで私も、お話を聞かせていただいたお礼にお手伝いすることにした。
渡辺さん「若い人が農作業を手伝ってくれたら、収穫したお米を30キロくらいあげたいね。自分が手をかけて育てた野菜や米の美味しさは格別だよ」
千葉「30キロ・・・! 渡辺さん、やっぱり気前よすぎです」
毎日口にするお米を30キロもいただけるとなれば、生活の基盤“食”が保障されたも同然。しかも、伸び伸び育つよう苗同士の間隔をあけ、手間と愛情が注がれた無農薬のお米! 農作業の見返りには豪華すぎるくらいありがたいお話だ。
雑草抜きくらいなら未経験者でもすぐに手伝える。やっていくうちに覚えれば戦力にだってなれそうだし、天候などで作業できない日をライター業にあてれば両立だって可能だ。
渡辺さんの田畑以外でも必要としているところは多いというから、体力に自信のある人なら引く手数多な予感。フリーランスが南砺市に滞在して働くの、けっこうありかも・・・?
薪が積まれたカフェで、農作業以外の「さすらい」向きのお仕事についても聞いてみる
渡辺さんに別れを告げ、我が城へ・・・向かう前に、腹ごしらえ。通りがかり、たくさんの薪が積まれた外観が気になった「なやかふぇ」でお昼をとることにした。
納屋を改装したという同店。中に入ってみると・・・
元が納屋だったとは思えないほど広くてオシャレな店内。なかでも目を引くのは薪ストーブ! 物珍しさに、案内してくれた方に声をかけると、それが「なやかふぇ」店長の山瀬さんだった。
山瀬さん「南砺市では、薪ストーブを導入すると助成金が下りるんよ。真冬でも半袖短パンで過ごせるほど温かいで」
千葉「ま、薪ストーブに助成金・・・!?」
都内で薪ストーブを設置しているのはきっとセレブリティな豪邸くらいじゃなかろうか。憧れの薪ストーブに助成金がつくとは、なんて素晴らしいんだ南砺市。しかも薪は地元の木を利用しているというから、木材さえも地産地消。
羨望のまなざしで薪ストーブを眺めていると、山瀬さん自ら育てた野菜のみを使用したカレーが到着。お味の方は、たっぷりの野菜が溶け込んだカレーはマイルドな口あたり。サラダに至っては野菜本来の味が濃く甘みもあって、ドレッシングも要らないほどだ。
地元の人の声も聞いてみようと、山瀬さんにも「さすらいワーク」でフリーランスができる仕事がないかとお話を伺ってみた。
山瀬さん「野菜の収穫やトラックまでの荷運びとか、畑仕事に若い人の力は必要だよ。本格的に数百万円の収入が欲しければ、畑を買い取って農作業だってできる。畑はたくさん余っていて、タダ同然の金額で手に入るんだから」
千葉「後継者がいなくて放置されている畑がたくさんあるそうですね。でも、体力に自信がなかったり、短期間しか滞在できなかったりしたら厳しいですか?」
山瀬さん「そんなことないよ。干し柿のシーズンなら柿の皮むきや吊るし作業があるし、冬場はスキーのインストラクターも募集しているよ。南砺市には北陸で1、2位を争う広いスキー場があるんだ」
千葉「!! 雪山好きにはたまらない環境ですね!」
ほかにも、農協組合などを通して仕事を紹介してもらうこともできるし、最初の仕事での出会いから新たな仕事を紹介されることもあるとのこと。また、昨日展示館を訪れた“曳山祭”でも、山車の引手が足りずに困っているという。さすらいでやってきたフリーランスでも、働ける仕事はけっこう多いみたい。ありがたや!。
南砺市だからこその職を経験することで、意外な発見があったり、自分でも知らなった才能が開花したり、天職と出会えることだってありうるかも!?
南砺市のスーパーで見つけた幸せ
南砺市での仕事情報を仕入れ、ついでに「地元スーパーのお刺身は鮮度抜群で美味しい」という情報も入手したので、スーパーに寄ってから体験ハウスへ帰宅。
「早くお刺身を食べたい!」一心でパソコンにかじりつき、ひたすら仕事に精を出す。南砺市は自然が多いからか、気温の高い日でもムシムシした感じがなく過ごしやすい。日中の室内でも窓を開ければいい風が入ってきて、わりと快適だ。そんなわけで仕事も順調にすすみ、2日目は終了。
そして・・・、いよいよお楽しみナイトの幕開け。そそくさとパソコンを片付け、スーパーでゲットしたお刺身とビールをセッティング。
さすがは富山県。都内のスーパーにこんなツヤツヤしたお刺身はそうそうないし、価格だって1.5倍くらいはするはず・・・と、込み上げる感動とともに口へ運ぶと、期待を裏切らないほどよい弾力。時間の経過を感じさせない風味が口いっぱいに広がり、思わず「旨いっ」と声が出た。ひとりなのに。
嗚呼、ビール片手に満天の星空を眺めながら新鮮なお刺身に舌鼓を打てるとは、なんて至福の夜だろう。地域の人の心に触れて、リアルな農作業手伝って、仕事もして・・・。何とも言えない満足感に包まれる。
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