南房総と東京のデュアルワーク生活を送る赤川美幸さん

南房総と東京のデュアルワーク生活を送る赤川美幸さん

約4年前に千葉県南房総市に移住し、南房総の魅力を伝えるWebメディア「南房総ex-press —みなぷれ—」を運営する一方、都内でスイーツコンサルタントとしても活躍している赤川美幸さん。南房総と東京とのデュアルワークを実現し、生き生きと仕事をする姿が印象的な赤川さんですが、実は移住は自らの意志ではなく、「不本意だった」と語ります。

しかし、地域に対して心を閉ざしていた赤川さんは、あるきっかけから新たな自分と出会い、地元愛を育んでいきます。どのようにして移住先に魅力を見出し、居場所を見つけていったのか、そしてデュアルワークに至る道のりについてお話を伺いました。

田舎暮らしをするなんて、考えたことがなかった

――南房総への移住は、赤川さんご自身の意思ではなかったそうですね。

移住のきっかけは、のちに夫となる人が、サーフィン好きが高じて南房総に仕事を見つけたことでした。当時の私は東京で仕事をしていて、結婚後も週末婚のような形だったのですが、妊娠を機に私も南房総へ移りました。仕事を続けたかったのですが、やはり子どもは二人で育てたかったので。でも、私自身は生まれも育ちも東京で、田舎暮らしを考えたことなんてこれっぽっちもなかったんです。しかも、移住によって好きな仕事も辞めざるを得なくなってしまった。本当に「青天の霹靂」でした。

――移住前はどのようなお仕事をされていたのですか?

フリーランスでスイーツコンサルタントをしていました。デパ地下やコンビニで売っているスイーツを企画する仕事です。会社員時代からずっと続けてきた大好きな仕事で、独立して軌道に乗ってきたところでした。オンラインで完結する仕事もありますが、私の仕事は現場が大切。店に行って市場調査をしたり、相手と一緒に実際の商品を手にし、試食するなどした上で、話し合ったりすることが必要な仕事でした。それに、フリーランスには産休・育休がなく、移住するならそれまでの契約も終了するしかなかった。本当に辛かったです。

――後ろ髪引かれる思いで、南房総に来られたのですね。

そうですね。でも移住すると決まってしまったから、そのためにやらなければならないこともいっぱいでした。まずは家探しですね。自分が田舎暮らしをするなんて思ってもいなかったから、「ログハウスで自然に囲まれてゆったり…」みたいな旅行気分のイメージしかなくて(笑)、最初は別荘地にある家を見に行ったりしました。でも結局、空き家バンクを利用して住宅地にある家に決めました。基本的に、こちらでは賃貸でも一軒家が多いです。ネットでいろいろと探せる都会のお部屋探ししか知らないと、こちらでの家探しは大変に感じるかもしれませんね。

馴染めない土地での孤独な育児。ストレスで突発性難聴に

南房総市のお隣・館山市のイベント「北条海岸ビーチマーケット」にて、お子さんと

南房総市のお隣・館山市のイベント「北条海岸ビーチマーケット」にて、お子さんと

――そして出産、南房総で育児の日々が始まったのですね。

出産は都内の病院でしましたが、退院後すぐに南房総に戻りました。もともと不本意に「来させられた」という思いがあったので、移住後は周りにも心を閉ざしていて、人付き合いがほとんどありませんでした。そんな中で慣れない育児生活がスタートし、さらにひどい孤独感と閉塞感とに苛まれることになってしまいました。

――初めての育児はただでさえ大変なものですよね。周りに頼れる人がいないと、赤ちゃんと一対一の状態が続いて、世界から切り離されたような気持ちになります。

ずっと好きな仕事をして、それで稼いで自分の思う通りに生活してきたのに、移住と出産で一気に世界が変わってしまったと感じていました。「夢が絶たれた」と。そして息子の生後8か月頃、突然左耳が聞こえなくなり、めまいや気持ち悪さでまっすぐ歩けなくなったのです。

ストレスによる突発性難聴との診断を受け、2週間ほど都内の実家に帰って休みました。東京にいればすべてが解決するような気がして、離婚すら頭をよぎりましたが、子どもを思うとそこまでは踏み切れず…やむなく南房総に戻りました。しかしそれから約3か月後、以前の仕事でお付き合いのあった方から、家にいながらでもできる仕事として、スイーツのトレンドについての記事執筆の依頼をいただいたのです。

――移住後、初めてのお仕事ですね。

ライティングのお仕事をいただいたことで、「また仕事ができるかも」と、一筋の希望の光が射した気がしました。さらに仕事がしたかったので保育園を検討しましたが、南房総では待機児童はいないものの、年度途中の入園は難しく、一時預かりもなかなか空きがない状況でした。結局、年度が変わったタイミングで入園が決まり、そこから本格的に仕事をする道を模索することになりました。

『スクット』で芽生えた地元愛、そして「TEAM南房総」結成へ

南房総市・千倉の海

南房総市・千倉の海

――ランサーズの新しい働き方講座『スクット』受講のきっかけは?

ライティングの仕事は不定期だったので、安定して稼ぐために地元でパートを探しましたが、保育園に預けられる曜日や時間帯ではなかなか見つかりませんでした。そこで保育園の園長先生に相談したところ、『スクット』を紹介していただいたのです。私が本当にやりたいのは以前のようなコンサルだったので、実は「ちょっと違うかも…?」と思ったのですが(笑)どんなチャンスも逃したくなくて、その日のうちに市役所に問い合わせ、受講を申し込みました。

――実際に『スクット』を受講されて、得られたものは何でしょうか?

講座の中で実際に取り組む案件はライティングが多かったのですが、自分が書くことを「面白い!」と感じたことが意外でした。学生の頃は国語は苦手でしたが、「伝えたい」という気持ちが強く、それを言葉で表現していくことに楽しさを感じたのです。自分の新しい才能を見出してもらった、という思いでした。そして、同じ受講生としての仲間との出会いや、取材の課題などを通して南房総とそこに住む人々のことを知り、初めて地元への愛情を持ち、育てていくことができました。

――お仕事コミュニティ「TEAM南房総」結成はどのように?

集まった受講生はもともと持っているスキルや経験もさまざまで、自分で仕事を取れるようになっている人もいれば、『スクット』の課題をこなすだけで精一杯という人もいました。講座が終了したら、学んだだけで仕事につながらず、それで終わってしまう人が出てしまう気がしていました。チームとなって何かを作れば、受講生たちのつながりを保て、仕事として書くことを続けられると思ったのです。私の経験した孤独や、自分を活かせる場がないという辛さを、誰にも味わってもらいたくないという気持ちも大きかったですね。

――そして、チームで「南房総ex-press —みなぷれ—」を立ち上げたのですね。

南房総に移住してから、自分が本当にほしいと思える情報が得られる場がなかなかありませんでした。例えば、全国を網羅している大手のグルメサイトや美容院などの予約サイトはありますが、南房総のことをピンポイントで探そうとすると情報が少なかったり、古かったりすることが多くて。

そこで、住民や南房総に移住を考えている人、観光客などが本当に知りたい、生きた情報を伝えるサイトがあればと思い、「南房総ex-press —みなぷれ—」を立ち上げました。サイトがあれば書くことを続けられるし、南房総の活性化にもつながります。ありがたいことに「みなぷれ」へのアクセスは順調に伸びており、特に都内からのアクセスは多いですね。

好きだった仕事を再び

仕事にも、プライベートにも欠かせないスイーツたち

仕事にも、プライベートにも欠かせないスイーツたち

――現在は、東京でもお仕事されているそうですね。

以前働いていた会社の上司が、私が南房総に移住したことも知った上で声を掛けてくれたのです。現在は週1回都内に出向き、以前のようなスイーツコンサルタントの仕事をしています。それ以外の日は南房総でスイーツ企画のための資料を作ったり、「南房総ex-press —みなぷれ—」の記事執筆や打ち合わせ、掲載前の記事チェックやアクセス解析をしたり。南房総と東京のデュアルワーク生活ですね。

――今後の夢や目標は?

現在は企業とともにスイーツ企画の仕事をしていますが、約20年にわたって経験を積んできたスイーツの専門家として、より広く自分を打ち出していきたいと思っています。スイーツのトレンドの最先端はやはり東京なので、現在のデュアルワークから一歩進んで、東京にも拠点を持つ二拠点生活にしていきたいとも思っています。南房総の良さも、東京の良さも、どちらも発信できるようになっていきたいですね。

「移住」は一生ものじゃない。もっと気軽にやってみよう

――移住やデュアルワークに興味がある方に、何かアドバイスがあればお願いします。

興味があるなら、まずは一度気になる地域に実際に行ってみてください。ネットでもいろいろと調べられるし、都内など都会に住んでいれば移住関連のイベントなども何かとあると思いますが、まずは現地を訪れて、実際に自分の目で見て、体感して、人に会うことが大切じゃないかなと思います。そしてやっぱりいいなと思ったら、週末移住みたいな形でもいいから一度住んでみればいい。

もし向いていないと感じたなら、都会に戻るなり、別の場所を探すなりすればよいのです。移住は大きな決断ですが、一度行ったら死ぬまでいなければいけないわけじゃない。住む場所を変えれば、確実に視野が広がります。もし行ってみてダメでも、それでマイナスになるわけではありません。移住という決断と行動は、どんな形でも何かをもたらしてくれるはずです。