メンバーの平均年齢が70歳以上という、パワフルなおっちゃんたちが取り組むプロジェクトが府中市で動き出しました。その名は「頼宗邸プロジェクト」。頼宗邸(よりむねてい)とは、府中市本山町の一番高い場所、府中市街が見渡せるところにある、あたりでもひときわ大きな古民家です。

歴史ある家を活用し、府中を盛り上げる

頼宗邸を、地域の役に立つように活用していきたいと、持ち主の桑田さんが考えたことがきっかけでプロジェクトが立ち上がりました。「イベントや習い事など様々な使い方をしていく中で、頼宗邸や本山に長く住んでくれる人がでてきてくれたら嬉しい」と桑田さんは話してくれました。

頼宗邸が建てられたのは約200年前、江戸時代末期頃と考えられています。

テレビがまだ一般家庭には普及していなかった頃、府中市で初めてテレビを設置したのが頼宗邸でした。当時は近所の人たちがテレビを見るために、頼宗邸に集まったそうです。離れの居間を見せてもらうと、古いテレビが置いてありました。これは当時みんなで見ていたものとは違うテレビだそうですが、この立派な家に大勢が集まって団らんする様子が頭に浮かびました。

現在、株式会社Ridilover(リディラバ)というツアー会社とコラボして府中市が体験ツアーを開催しています。今年の3月11・12日には、主に東京から12名の参加者が訪れ、頼宗邸で柿渋、ベンガラ塗り、炭焼き体験が行われました。

「多くの人に知ってもらい、使ってもらうことで、頼宗邸とこの地域を気に入った人に住んでもらいたいが、長く住んでくれる人を探すことが難しい」と桑田さんは言います。とにかく多様な活用をしていく中で、ここでやりたい!住みたい!という人が現れてくれることを望んでいます。

(一番高いところにあるのが頼宗邸)

具体的にどんな人に来てほしいか尋ねると、「自分のやりたいことがあって、たまたまこの場所がちょうどいい!という人がいたら嬉しい。そして本山は田舎なので、地元に溶け込めて、地域行事に参加できる若い人に来てもらいたい」とおっしゃっていました。

古民家をリノベーションして人を呼ぶ!

また、プロジェクトのメンバーで唯一若いのが33歳の宮脇亮平さんです。宮脇さんは大学で大阪に出て、卒業後は京都の設計事務所に就職し働いていましたが、3年前に地元である府中に戻ってきました。現在、家業である建設会社で働きながら、この頼宗邸プロジェクトや府中への移住促進の様々な企画に携わっています。

宮脇さんは「つぎのて制作所」という団体を立ち上げ、府中市・近隣市町にある空き家や空き店舗を有効活用していくための取り組みを行っています。

 (古い建物が残る府中市街。上の画像は元旅館を改修した町屋カフェ「恋しき」)

府中には、自分たちで家やお店をリフォームした人たちがたくさんいます。前回の記事で紹介したコーヒーファクトリーハイジの小谷さんや、それを手伝った季のむらの季絵さん、他にも、取材はしていませんがそういう人たちが何人もいました。宮脇さん自身も彼女さんと一緒に約1年かけてリフォームした家に住んでいますし、彼が働く建設会社の事務所も自らの手で改装しています。

(宮脇さんの自宅 左:改装前 右:完成後 ※宮脇さん提供)

このように宮脇さんは様々な企画に携わっていて、Webや冊子などでも府中市の魅力的な人、もの、場所を発信していく強い意欲を持っている人です。そういった人のまわりにはまたおもしろいエネルギーを持った人たちが集まるものです。私は滞在中、大勢の彼の友人と会って喋って本当にそう感じました。みんな府中が好きで、町を盛り上げようとしており、そして何よりもまず自分たちが楽しんでいるのです!

(府中滞在初日の夜、ウェルカムな雰囲気と各人の熱い想いにびっくり)

「つぎのて制作所」を通してリノベーションした家や店舗は、府中に移住したい人、府中で起業したい人に積極的に貸し出していこうと考えているそうです。歴史ある建物、そして思いが絶えないように、次につないでいきたいと宮脇さんはプロジェクトを進めています。

地元のおっちゃんに府中の歴史を聞く

頼宗邸プロジェクトのメンバーの一人、武田さんは本山に住んでいます。彼の家からは府中市街やその中を流れる芦田川が見渡せます。

「川のないところに町は発展しない、とよく言ったが、まさに府中もそうだった。昔、備後の国の国府がここ府中に置かれ、そうして町が発展していった。また府中には、朝鮮から攻められたときに日本を守る、常城(つねき)とよばれる山城があったと考えられている。府中は国府や常城があった古くて歴史のある町。そして本山は南向きの山の斜面にある地域。そこに頼宗邸がある。頼宗邸の建物の中に入って、庭に立って、ああここがこの地域の文化の発祥・発展の地だったんだと感じてほしい」

家の庭先から府中を見ながら、そのように話してくれました。武田さんのお話を伺いながら、彼がとても本山という故郷に誇りを持っていることが伝わってきます。

(頼宗邸にて。左から、武田さん、桑田さん、宮脇さん)

ちなみに青目寺というのは、本山にあるお寺で、こちらの境内からもまた違った角度の府中を見渡すことができます。もともとは現在と異なる七ツ池周辺という場所にあり、一時期は山頂に4坊、山腹に11寺を従えるほど隆盛していましたが、度重なる火災などで次第に衰退していき現在の場所に移されました。

宮脇さんと私はその後、青目寺と七ツ池を訪れ、それから府中で一番高い山である亀ヶ岳(標高539.4m)に登りました。とても静かで気持ちの良い場所です。自然に囲まれ、深い歴史を持つこの土地のすばらしさを、外から来た私だけでなく、地元民である宮脇さんも改めて感じることになりました。

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