ギター講師兼ライターの私がランサーズのメルマガで「さすらいワーク」なる世界を知ったのは、つい先日。富山県南砺市は私の住む岐阜県郡上市からそれほど遠くないし、調べてみたら伝説的なギター職人の工房があることが発覚。これは行かなければ。だいいち遠くの別邸で作業だなんて、昔の文豪みたいでかっこいいじゃないか。
そんなわけで、南砺市での「さすらいワーク」をちょっと体験してみました。自車移動の二泊三日、所どころ(技術的に)残念な写真とともにお送りします!
ソウル/ファンク系16ビートのような地形が楽しい。
郡上からの一般道で、目的地まで2時間強の道のり。田舎から田舎への行程だけど、やはり田舎の景色にも音楽同様ジャンルというものがあって、山と川と田んぼの配列がだんだん変化していきます。
岐阜から富山へは、「本州のこっち側から向こう側へ」という感覚です。下り坂が多くなってきてからがいよいよ富山県南砺市。「五箇山(ごかやま)」と呼ばれるこの近辺の地形は山!川!橋!湖!橋!みたいな起伏の激しさがあり、細かくザクザク刻みながらも落ち着きがあるソウル/ファンク系のグルーヴを感じます。
右や左に大きくカーブする橋って初体験なんだが、これって普通なんだろうか。一人旅の運転中につき、証拠写真はありません。しかし、ドライブ楽しいぞこれ。
合掌造りをよそに、腹ごしらえ。「お食事処坂出」さんに入店しました。豆腐や湯葉を使った郷土料理を得意とするお店だそうだけど、観光客だけでなく地元の人も多く利用しているようです。日替わりランチをいただきました。うまいぞ。
さっそく入所&作業。しばらくココがおれの城。
役所で手続きを済ませ、案内してもらったのが『南砺市「なんとに住んでみられ」西赤尾体験ハウス』。移住を検討している人が南砺市での生活を体験するための施設なのだけれど、移住に少しでも興味があれば、さすらいワークで利用するのはぜーんぜん構わないんだとか。私のように仕事の合宿として積極的に利用する人もいるようです。家財道具や家電、食器など一式あり、キッチンには「塩」もあるので、徒歩2分のスーパーで食材だけ入手すれば何とでもなります。さて仕事仕事。
今回のさすらいワークに際しては、事前に「農業体験ができるよ」っていうお知らせがありました。地元の農家さんとわいわい作業して、お食事とかお酒とかご一緒したりして、きっと楽しいんだろうなとは思いましたが、今回は作業に集中したかったので「放置」してもらい、気ままに初めての南砺を体験させてもらいます。
今日の作業は地元のご当地アイドルの2ndシングルを作るっていうプロジェクトで、オケの打ち込みを整えてギターの録音をします。新鮮に感じる、しかし落ち着いた環境。すっごくはかどりました。
辻四郎氏の職人気質。この人に不可能はないのか。
二日目の昼からは、いよいよ「辻四郎ギター工房」へ。日本におけるジャズギター製作の第一人者と言われる辻氏は、生まれ育った故郷で働くことにこだわり、ギター作りに適さない湿度の高い気候まで克服したのだとか。
現在では一本一本オーダーメイドでギターを作っています。板を張り合わせて作る「箱モノ」のボディ形状までオーダーできるのは、かなりすごいことなんです。デザインや設計など、普通の工房なら断ってしまうようなオーダーに「やるだけやってみます」と言いつつ平然と対処します。
職人の工房は、ギター好きにはたまらん所です。また改めて取材に来たいと思います。ありがとうございました!
ピンチ!煙草が切れたので買いに行くの巻。
辻氏の工房を辞してすぐ、深刻な事態に気が付きました。
「煙草の残数が頼りない。」
愛煙家にとって、手持ちの煙草が切れるのはぜひとも避けたいところ。しかし、付近には煙草屋もコンビニもありません。これは訊くしかない。というわけで「五箇山総合案内所」に。
受付の女性は知らなかったようだが、そばにいた男性が「電気屋に売ってるよ」と教えてくれました。田舎に行ったらとにかく「話しかける」ことが重要だ。昨日ランチを摂った「お食事処坂出」に隣接する「ぬままえ電気」。無料で配布している観光案内地図に印を打って、渡してくれました。
案内された「ぬままえ電気」には、確かに煙草が並んでいました。メジャーな銘柄は揃っていたけど、私が求めるものはありませんでした。煙草を求める旅は、まだ続く。よし、ここは最寄りのコンビニを検索だ。
山の向こうも同じ南砺市ですが、住宅地なイメージ。畑も広がっているけどドラッグストアや大型のスーパーマーケットなども見られます。コンビニには目的の銘柄がちゃんとありました。一件落着。
自分のペースで仕事ができる。余韻にふけるひととき。
以上、仕事は一日目に片付いてしまったので、二日目の夜はビール飲んでギター弾いて寝るだけです。初めて訪れた南砺市は、のどかでとてもいいところだと感じました。
写真は苦手なのでカメラは敬遠していたのですが、さすがにスマホの写真で仕事するのは申し訳ないと痛感しまして、帰って来てから買いました。辻氏には改めて取材するお約束をしているけど、次回はもっとマシな写真で取材記事を書きたいと思います。
南砺市は移住者の受け入れを推進しているので、体験ハウスの利用に際して
・南砺市の魅力や移住についての説明を聞かされたり
・移住の意思を尋ねられたり求められたり
・・・するかも、ってちょっと警戒していたんですが、そういったことは一切なし。手続きが済んだら、退出までガチで放置してもらいました。この体験ハウス自体が南砺市のプロモーションであって、ここに住む人それぞれに「そのままの南砺」を感じてほしい、とかそういうことなんだろうな、きっと。アンケートの記入が求められるだけです。
さすらいワークにはきっとルールなんて無くて、それぞれのフリーランスが思い思いに体験していいものです。今回僕は、非日常を求めるのではなく日常のまま、シンプルに自分の仕事をするためだけに南砺を訪れました。
初めての地は新鮮に感じましたが、放置してもらったおかげで特別なことが何もなく、なんだか自分が昔からここの住人だったような、一種の安らぎも感じました。作業に集中できて驚くほどはかどったのは、南砺で得た新しい発見です。昔の文豪たちがわざわざ別荘で執筆したのも、分かる気がします。
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