一度食べた人は必ず次も食べたいと言ってくれるようなゴボウなんです。そういうのをこれから残していかなきゃいけないなぁと。それで新規農業者クラブというのを作って活動してるんです。
力強い言葉で話すのは田村農園の田村 敏浩さん。7年前に赤磐市の是里に移住し、農業を営んでいる。ブドウの産地として知られる是里だが、収穫は10月に終わってしまうため、10月〜3月はゴボウを育てている。
これからゴボウをブランド化させようと、今まさに動き出している田村さんたちにお話を聞かせてもらった。
田村:昔はゴボウの産地だったんですよ。岡山県では同じ芳井町(現井原市)にある明治のゴボウと是里のゴボウが有名な産地だったんです。
でも今は両地域とも同じように高齢化が進んで、跡を継いで作る人も少なくなってきて、産地としても衰退していくんです。でもせっかくのここでしか作れないゴボウなんです。なんとか残していかなきゃいけない。
地域にいる経験者を師匠と仰ぐ
農業経験のない田村さんを受け入れ、一からすべて教えているのはこの地域で50年ちかく農業を営んでいる勝浦剛さん。地域の方からは「勝浦さんのブドウやキウイが食べたい」と名指しでリクエストが入る。
勝浦:明治村のゴボウと同じような土でできるんじゃ、ここはな。
佐藤:土は他の地域とは違いますか?
勝浦:岡山県じゃぁ連島ゴボウ言うて、連島というゴボウの産地があるんやけど、そこはちっさな砂の土ですぐ抜けるようなゴボウなんじゃけど、ここは(土が)固いからそういう手でいかん。
佐藤:この土は固いんですか?
勝浦:冬はもうコンクリートみたいに固い状態になる。
佐藤:ゴボウにはどういう影響があるんですか?
勝浦:固いんじゃけど、しなって、風味があって、食べる時にはやわらかい。中が締まって、香りがあって、やっぱりこういうゴボウがおいしい。
是里のゴボウは赤くて固い土でつくられるのが特徴。掘る時には重機を使わなければならない。ユンボで1.5メートルほど土を搔き出した後は、スコップと手で収穫する。
佐藤:このゴボウの品種名はなんて言うんですか?
勝浦:滝野川。三年ゴボウの。
佐藤:滝野川は昔から地域に根付いてるものなんですか?
勝浦:色々あるんじゃけど、これが一番この地に適しとる感じ。
長いものもあれば短いものもある。細いものもあれば太いものもある。様々な消費者のニーズに応えたれるよう、あらゆる形のゴボウを出荷する。
実は移住のきっかけはゴボウではない
田村:こんなに言ってるんですけど、実はここでゴボウを作ってるのを知ってて移住してきたわけではないんですよ。ブドウを作ろうと思って来たらゴボウがあったんです。
佐藤:はじめてこのゴボウに出会った時はどう感じたんですか?
田村:すごいおいしんですよ。いまだに食べてて思います。反響がすごいんです。自分のお客さんに出しても、必ずリピーターになってくれたりして、そこから色んなつながりが出来ます。
だからこれはブランドにしなきゃって思いましたね。
「どうしても是里がいい」その理由とは・・・?
佐藤:それにしても、どうして岡山の中でも赤磐に来ようと思ったんですか?
田村:赤磐というより是里がよかったんです。他の地域では農地を用意してくれたり、民家を改修する補助金が出たりしたんですけど、是里はそういった受け入れに関しては何もありませんでした。
直前まで家も決まらなかったですし、不安しかないような場所でした。
佐藤:そしたら普通は赤磐に来ないじゃないですか(笑)
田村:色んな地域の候補があったんですけど、どうしてもはずせないんですよ是里が。私が悩んでる時に奥さんに聞いてみると「私は是里以外は行かんよ」って言われたんです。
佐藤:奥さんも変わってらっしゃいますよね(笑)
田村:もうとにかく雰囲気がいいんです。人が良くてあったかいんです。
是里のゴボウの魅力は「土の味」
田村さんらが育てたゴボウは地元の人はもちろん、遠方から買い求めに来る人もいるそうだ。赤磐市にある人気のイタリアン・レストラン「E-flat」でもそのゴボウは使われている。
佐藤:田村さんのゴボウをはじめて食べたときはどのように感じましたか?
藤原:土の味がするんですよ。もちろんいい意味で。今までに味わった事のないような。
佐藤:土の味がする.. 他のゴボウは土の味がしないんですか?
藤原:しますよ。ただ田村さんのつくるゴボウはその土の味が特に強いんです。そして肉厚感みたいなものはすごい感じましたね。
佐藤:だからボロネーゼにしようと思ったんですね。早速いただきます。
ゴボウってトマトともすごい合うんですね。そして本当にお肉を使っているような食感もしますけど、でもやっぱりゴボウだ。お肉を使っていないなんて信じられない。
ゴボウ独特の臭みはないし、食感がとてもいい。ゴボウを使ったスパゲティなんてはじめて食べました。
藤原:ボロネーゼのゴボウはワインで煮込んでるんです。でも田村さんのゴボウは生で食べても、臭くないですよ。
佐藤:はじめて知りました。ゴボウって生で食べれるんですか!?
藤原:鮮度がよければ食べれますよ。生でもおいしいんです。生で食べるって面白いんですよ。素材が本当によくわかるんで、ぜひ試してみてください。
移住者だけが移住者にできること
田村さんは新しく移住して来た中島智史さんや木下雅晴さんらと是里新農業者クラブをたちあげた。農具や大型の機械をシェアすることで各自の負担を減らすほか、新規就農しやすい環境をつくるのも狙いだ。
最近では小学生がゴボウの種を植えてから収穫までする授業や、農業体験の受け入れもはじめたと言う。大阪などに行って是里の農産物をPRをすることもあるそうだ。
「衰退していく地域に歯止めをかけて、変えていかなきゃいけない」「是里に移住者が来る事は、仲間が増える事」という言葉が強く印象に残っている。
農地もなければ道具もない状況でも是里に移住者が来るのは、きっと居心地のよさからなのだろう。是里のあたたかい雰囲気の中で今日も誰かを迎えている。
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