「はいっ」「はいっ」「はいっ」

威勢の良いかけ声とともに、餅つきが始まった。歩行者達が次々と足をとめ、あっという間に人だかりができる。

ここは、近鉄奈良駅から東向き商店街を通り抜け、三条通りと交差するところにある「中谷堂(なかたにどう)」。よもぎ餅一筋で25年の歩みを進めてきた和菓子屋だ。

やわらかくてコシのある餅に仕上げるためには、蒸したての餅米を熱いうちにつくことがカギになる。そう、歩行者達が足をとめて見とれていたのは、ここでしか見られない、あまりにも早い高速餅つきだった!

臼でつくのは2、3分くらい。つき始めてから徐々にスピードをあげていき、最後の30秒が最も高速になる。

1秒間に2回つくそうだ!

さらに、高速の合間にも、返し手は餅に水分を補いながら、小さく返したり、大きく返したり。後者の作業を担当しているのは、中谷さん、こと餅マイスター(※)(と勝手に呼ばせていただく)である。

餅の仕上げを見極める、中谷堂無二の存在だ。つきたての餅は、1つ130円で販売されており、早速私もいただいた。

温かくやわらかい。

歯が当たらない部分がびよーんと伸び、程よいコシがある。そして、よもぎ生地・きな粉・あんこの風味が仲良く溶けていく。

おいしい!子供たちもあっという間にたいらげた。

高速餅つきとよもぎ餅、それぞれの生い立ちが気になった。餅マイスターの生まれ故郷、上北山村に高速餅つきとよもぎ餅のルーツがあることがわかった。。

奈良県南部に位置する上北山村では、高速で餅をつくのが普通であり、私たちがよく見かける餅つきの速度は、逆に不思議なんだとか。餅マイスターにとって高速餅つきは、パフォーマンスでもなんでもないのだ。よもぎ餅も上北山村で作っていたものをそのまま再現しているとのこと。

おいしい餅で多くの人を喜ばせたい、ただそれだけだと言う。
なんて素直なんだろう。

最近は、パフォーマンスに注目が集まっており、複雑な気持ちになることも・・・という本音も。それでもお客様が喜んでくれるなら、と餅マイスターは今日も餅をつく。中谷堂の口福(こうふく)を多くの人に届けたくて。

ちなみに、病院へ行くようなケガは一度もしてないそう。よかった。

※マイスターとはドイツ語。マスター(英語)の意味とほとんど同じで専門家という意