フリーランスの“もっと自由な働きかた”を求め、3泊4日で富山県南砺(なんと)市を訪れた筆者、フリーライターの千葉こころ。地元の方々の話から南砺市が抱える“高齢化”の問題を知り、『さすらいワーク』としての可能性を探るべく、プチ移住者でも貢献できる仕事について詳しく聞いたのは昨日のこと。
農作業や畑仕事、干し柿製造に祭りの山車曳き、冬場は屋根の雪下ろしなど、数か月の滞在でも働ける環境は整っているし、どれもライティングの仕事と兼業することもできる。
3日目となる今日は「南砺で暮らしません課」の方からご紹介いただいた荒井さんと由宇さんに会いに、観光を兼ねて五箇山地区の「菅沼合掌造り」へ赴くことに。でもその前に、仕事しなくちゃ。
澄んだ空気とソウルフードでおなかいっぱい胸いっぱい
朝の目覚めが爽やかなのは、見渡す限り広がる緑のおかげ? 澄んだ空気も美味しくて、用もないのに外へ出ては深呼吸。さあ、午前中のうちに残った仕事を片付けるぞ。
北陸といっても、やはり夏は暑い。日中は連日30度越え。それでも都会のヒートアイランド現象がもたらすような息苦しい暑さではなく、田畑を吹き抜ける風も心地よく、肌を伝う汗でさえ爽快に感じるほどだ。
とくに午前中は過ごしやすく、澄んだ空気で頭が冴えたおかげか、次から次へと文章が湧いてくる。豊かな自然に触れ、心が穏やかになっているのも仕事がはかどる理由かな?
思いのほか仕事が進み、頑張ったぶんだけおなかも空いた。
喰う・飲む・笑うがなにより好きな筆者。ちゃっかり地元の方から聞き出した“美味しいもの情報”は、昨夜のお刺身だけではなく・・・。東海北陸自動車道の城端ハイウェイオアシス「ヨッテカーレ」で、富山県ならではのおむすびが食べられるとの情報もキャッチ済み。しかも一般道側からも入れるというから、五箇山に向かいがてらランチはそこにロックオン。
たかがおむすび、されどおむすび。昆布の消費量日本一といわれる富山県ならではの、とろろ昆布に包まれた「うめとろろ」は地元民も大好きなソウルフード。とろろの風味ととろけていく食感が絶妙な味わい。
富山湾沿岸でとれる白エビは「白えびからあげ」と蕎麦のダシにも使われている。そばに乗せられた「赤巻き」はかまぼこで、一般的な板付よりメジャーなんだって。ほんのり甘みを感じる優しい味。
南砺市特産の赤カブは、漬物でさっぱりといただきます。
富山県や南砺市の美味しさが凝縮されたランチになって、おなかも心も大満足!
世界遺産で働ける!? 接客でさすらいワーク
おなかも膨れたところで、五箇山地区の「菅沼合掌造り集落」へ。実はここ、「さすらいワーク」が決まってからとっても訪れたかったところ。
五箇山の菅沼合掌造り集落はユネスコ世界遺産の文化遺産に登録され、国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている。しかも、今なお家屋で生活が営まれている“人が住む世界遺産”なのだ。
この日は偶然にも、茅葺き屋根の葺き替え作業中。合掌造りは20年に1度のサイクルで茅葺きの葺き替えをおこなっているそうで、周辺には100棟ほどの家屋があるため、1年に5軒ずつくらいのペースで葺き替え作業がおこなわれているらしい。
菅沼合掌造り集落で生まれそだったという荒井さんは、「葺き替え自体は職人さんでなければ難しいけれど、茅の収穫から外した茅の処理まで、葺き替えにまつわる作業はたくさんある。昔は“結い”という相互扶助でおこなっていたけれど、今は労力が集まらないので一般のかたの力を借りていますよ」という。
さすらいワーカーでも手伝えることはたくさんありそうだ。
世界遺産とあって、観光シーズンともなれば土産処やお茶屋は大忙し。
荒井さん「観光シーズンはアルバイトを雇っているから、さすらいワーカーも大歓迎だよ!」
千葉「そんなに忙しいと、本業と両立するのは大変ですか?」
荒井さん「バイトの子は何人かいるから、上手にシフト組んで観光したりしてるよ。その時間を仕事に当てればいいんじゃない?」
千葉「そうなんですね。世界遺産で働けるとか、憧れます…!」
荒井さん「なかなかできないよね(笑)。接客が苦手なら民宿の手伝いもあるし。宿代わりにもなっていいかもね」
千葉「合掌造りに寝泊まりできる仕事なんて夢のようです」
そこへ、仕事がいち段落した由宇さんも合流。
フリーランスデザイナーの由宇さんは、数年前に南砺市へ移住してきたさすらいワーク先駆者。仕事の関係で何度か南砺市を訪れているうちに魅了され、移住を決意したのだとか。
由宇さん「フリーランスって自由があるようで、いつも仕事に追われている感があるじゃない? ここにきて、のんびりとした時間の流れや、朝起きて『今日は天気がいいから畑のアレをやっちゃおう』みたいな追われる相手が“自然”というのが、いいなぁって思ったの」
季節の移り変わりを肌で感じたり、地元のためになる働き方ができたりと、今はすごく充実した毎日を過ごしているそう。本業のデザインも「インターネットが使えるところなら支障はない」と順調な様子。地元の商店やイベントのポスターなどを手掛けることも多いそうだ。
千葉「デザイナーの仕事と二足の草鞋で、大変に感じることはありませんか?」
由宇さん「逆に癒されてるの。南砺市は地域性も地元のかたの人柄もすごく穏やかだから、気持ちが洗われるんだよね」
千葉「気持ちの面で得られるものが多いなっていうのは私も感じました。それだけでも訪れる価値があるような」
由宇さん「そうなの! さすらいワークで来る人にも、この地をそのまま愛してほしいな」
千葉「南砺市はいるだけで感性が磨かれるような何かがありますよね。仕事にも活かせそうな気がする」
由宇さん「私は人間力が養える地だと思ってる。でもね、最近はデザイナーの仕事を減らそうと思っているの」
千葉「どうしてですか?」
由宇さん「自然の相手が忙しくって(笑)」
移住者だからこそわかる南砺市の魅力を語る由宇さんの笑顔は、地元民以上に地元を愛する気持ちであふれているように感じた。
いよいよフィナーレ。南砺市最後の夜
菅沼合掌造りからの帰り道、由宇さんがメニューのデザインを手掛けたという熊・豆腐料理の「高千代」でちょっぴり早めの夕飯。
店主自らが仕留めた“ツキノワグマ”のお肉がいただけるお店。筆者史上初喰いのクマ肉。恐る恐る口にすると、強い弾力がありながらも脂の旨みが口の中に広がって、臭味はまったくなし。具だけ食べ終えたらエキスのしみでた汁を卵とじおじやにしてくれるので、余すところなくクマを堪能できる。
滋養強壮にいいとされるクマ肉のおかげで、まだまだ夜はこれからよ! といわんばかりにHPを回復させた筆者。でも、南砺市で過ごす夜も気づけば今日が最後。城端体験ハウスの最寄り駅から2駅となりの福光で「福光ねつおくり七夕祭り」を開催中ということで、鉄道に乗り換え行ってみることにした。
1時間に1本ほどの時刻表、乗降はボタンを押してドアを開閉、そして、さりげなく示された“ワンマン”の文字。都会の電車からは想像もつかないほどゆったりと時間を運ぶ城端線に揺られていると、慌ただしく過ぎていた都会での日常が遠い過去の出来事のように感じてくる。
暮れゆく空に浮かび上がる色とりどりの七夕飾りや賑わいを見せる露店を眺めながら歩いていると、打ち上げ花火の案内アナウンス。橋の上で開始を待っていると、ひとりのご婦人に声をかけられた。
「前いいかしら? しんどい? 」
お孫さんの横へ行こうとしたらしい。譲ったことをきっかけに言葉を交わすうち、蚊に刺された私の脚を気遣って「これあげるから巻いときんしゃい」とハンカチを差し出してくれたり、帰りを心配して「送っていこうか?」といってくれたり、ついさっき知り合ったばかりとは思えないほどの優しさをいただいた。(どちらも丁重に辞退したけれども)
南砺市のかたは皆、なんて和やかで心優しいのだろうか。
思いがけないステキな出会いとともに、夜空を照らす打ち上げ花火が筆者の南砺市最後の夜を彩りましたとさ。
3泊4日のさすらいワークを終えて
豊かな自然と伝統を大切にする風土、そして地元を愛する市民の思いが詰まった南砺市。観光地としては決して有名ではないけれど、ガイドブックからじゃうかがい知れない魅力と優しさにあふれた町だ。肌で感じたさまざまな空気はどれも心地よく、たった4日間だったけれど、筆者にとって第2の故郷となった気分。
市内には世界最大の曼荼羅が展示された「瞑想の郷」や野外劇場が幻想的な「利賀芸術公園」、そして古くから受け継がれる立体彫刻「木彫りの里」など、インスピレーションを与えてくれる名所もたくさん。
かつて板画家の棟方志功もこの地で得たといわれ、南砺市の人たちが“土徳(どとく)”と呼ぶ土地と風土が与える目に見えない力は、仕事での感性はもちろん、“人間力”も上げてくれるのではないだろうか。
たとえば都会で仕事をするうちの数か月、のどかな地を訪れて控えめで温和な人柄に触れながら異なる仕事をするダブルワークも、決して夢じゃないのがフリーランス。
環境を変えてみたいとか、故郷のぬくもりを感じたいとか、とらわれない働き方を求めているというのなら、一度南砺市の自然と温もりを、自身で感じてみてはいかがだろうか? きっとなにか、生きるヒントを見つけられるはずだから。
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