初めてお祭りの名前を聞いた時は、聞きなれないその響きに大変驚きました。

岡山県赤磐市で行われている秋祭りの『どんくそ祭り』。

どんくそ……。一体どんなお祭りなのか。パソコンで検索してみるも、異なる意味の辞書が表示されてしまい、全く情報が出てきません。

これは現地にて直接確認しなければ!と、あいにくの天気の中、車を岡山県赤磐市へと走らせました。

季節のお祭りがめじろ押し!緑豊かな岡山県赤磐市。

岡山県赤磐市へ到着するや否や、まるでこの地域を守っているかのような見渡す限りの山々に圧倒されました。車を出て景色を思い切り堪能する中で感じたのは、何よりも空気がおいしいということ!スーッと清々しい空気が、胸の中に流れ込んできます。

途中で立ち寄った「吉井川」。

コスモスが一面に咲き誇る川辺には、数日前に行われていた別の祭りの名残があり、一生懸命に作ったであろう手作りの人形たちが、さらに心をほっとさせてくれました。

200万本のコスモスが咲く吉井川堤防沿い。コスモスロードとして親しまれているようです。

 

さて本題へ!どんくそ祭りとは?

お祭りの前日に、どんくそ祭りの責任者である岡本さん宅へお邪魔し、どんくそ祭りについてお聞かせいただきました。

どんくそ祭りの責任者 岡本守さんと愛猫のすずちゃん。

—Q.「どんくそ」とはどういった意味ですか?

岡本さん:天狗(はなたか)の面をかぶった人を、この地域では「どんくそ」と呼んでいるそうです。

筆者:なるほど、方言なのですね!

—Q.天狗のお面は祭りに使われるのですか?

岡本さん:はい、天狗のお面を付けた数名が神輿(みこし)行列を先導します。

実際に天狗のお面を見せていただきました。すごい迫力です!子どもが怖がりそうですね。

—Q.「どんくそ祭り」とは、どのようなお祭りなのですか?

岡本さん:天狗たちを筆頭に、3つの地域(周匝(すさい)・中村・黒本)の代表が交代して力を合わせて神輿を担ぎながら、氏神様(八幡様)へ収穫の感謝と町の繁栄や平和を祈るお祭りです。このお祭りではなんと、往復約10キロの距離を歩くんですよ。

どんくそ(天狗)たちは、行く先々で子どもたちの頭を天狗の鼻で撫でていきます。その行動には、子どもたちの健康を願う気持ちや、頭が良くなるようにという願いが込められているんです。

数ヶ月前からお祭りのために準備をしてきた岡本さん。ルートや工程もしっかりと決まっていて、このお祭りの大切さがひしひしと伝わってきました。

少し霧がかかった早朝。晴れるといいな!いざ!どんくそ祭りへ

お祭りのスタート地点は「八幡宮」という地元の神社。到着すると既に数名の関係者の方が集まっていました。

法被を貸していただけました!ますます楽しみな気持ちが膨らみます。

初めに7つのお供え物を捧げ、しっかりと神様にご挨拶をします。

スタート地点となる八幡宮は約500年の歴史があり、神主さんも27代目となる由緒正しい神社です。ずっと地域を守っている氏神様を祀っています。

さて出発です!まずは周匝の人たちが神輿を担ぎます。花火の模様が印象的な華やかな印象の法被(はっぴ)を着ていました。

町を一望できる高台にある八幡宮。まずは急な階段を慎重に下りていきます。天狗たち(以下:どんくそ)も先陣を切って練り歩きます。

広大な大自然を背景に、元気な掛け声を響かせ3つの地域を渡り歩く

さて、いよいよ本番です。これから往復10キロにもなる距離を3つの地域で力を合わせて渡り歩きます。

あんなに霧がかかっていた空はいつの間にか快晴に!

子ども神輿も負けていません!元気いっぱいに「わぁーっしょい!」

大きな槍を振り回すどんくそは、大人の私にとっても怖いです。

どんくその面を身に付けた人は、様々な色の服を着ています。お話をうかがうと色それぞれ役割があり、黄色のどんくそは神輿を守る役目、他は暴れる役目があるそうです。(昔は子どもたちを追いかけ回していたそうな)

神輿を大きく左右に揺らしながら練り歩きます。ちなみに神輿の重さは120キロほど。8人の男性陣で力を合わせえて担ぎます。(私も担いでみたかったのですが女性は担げませんとのこと……残念です)

神輿のバトンは、中村、黒本へと引き継がれます。

ここで、中村の方々と神輿役が交代です。真っ青な法被に力強く「祭」と書かれており、元気に掛け声を響かせながら、どんどん歩いていきます。

最終の黒本の方々です。真っ白な衣装と神輿の金色があいまって、神聖な雰囲気を醸し出しています。

大切な休憩場所「御旅所」にて行われる御旅所祭

往復10キロもありますので、途中で何度か「御旅所(おたびしょ)」という所で御旅所祭と休憩を挟みます。

御旅所では地域の人たちのご厚意で、神様へのお供え物や関係者の人たちへお酒とお菓子が振る舞われていました。

たくさんの子どもたちの頭を鼻で撫でるどんくそ。

どんくそを目にすると、怖くて泣いてしまう子も。一方で必死にどんくそに話しかけている子どもたちもいました(どんくそは一切話せません)。その姿を見ていると何とも和やかで、疲れも一気に吹き飛びました。

一生懸命どんくそへ話しかける子どもたち。こうして何年も何年も繰り返されてきた光景なのでしょう。

祭りはいよいよ終盤へ。お昼休憩の至福の時

いよいよ終盤です。ここでお昼休みを挟みしばし休憩を取ります。

突然お邪魔したにも関わらず、私の分までごはんをいただいてしまい、朝から動きっぱなしだった空腹の身体に染み渡りました!お味噌汁の絶妙なだし加減も最高でしたが、特におにぎりのお米の旨味に感動しました。

一息ついた頃に何やら外が騒がしく……。急いで外へ出てみると、人だかりができており、高台からお菓子が投げられていました!子どもたちが大興奮!

「こんなに取ったんだよ!」と袋いっぱいのお菓子を見せてくれた子どもの誇らしげな顔が印象的です。

私も負けじとお菓子を取りに行こうとしましたが、時すでに遅し……。落ち込む私に、なんと神主さんからお菓子のプレゼント!小さい頃を思い出し何だか懐かしくなりました。

あらためて神輿をじっくりと見ると、何とも立派で神々しい神輿です。子どもからご高齢者の方まで、神輿が通ると感謝の気持ちを込めて奉納を神輿へ捧げます。地域の人たちの感謝の気持ちが詰まった神輿からは、どこか優しく凛とした印象を受けました。

ようやくゴール地点(スタート地点でもある)の八幡宮へ戻って来ました。最後の力を振り絞り、急な階段を慎重に上って行きます。これにてどんくそ祭りも終了です。

最後に

今回、ずっと神輿の後ろを歩かせていただいたのですが、そのおかげで、地域の人たちの温かさが、じんわり伝わってくる場面に出会うことができました。

子どもたちの無垢な笑顔、地域の人たちのお祭りを楽しみにしている気持ち、その気持ちに応えようと懸命に神輿を担いでいた人たち、何度も子どもたちの頭を鼻で優しく撫でていたどんくそたち、数ヶ月前より準備し無事に終わるように見守っていた人たち、いくつもの御旅所でしっかりと御旅所祭りをされていた神職の人たち。

みんなの気持ちが一体となって、どんくそ祭りは存在しているのだと強く感じます。

どんくそ祭りの歴史は約500年。

文字にすると薄っぺらく感じるかもしれません。ですが、これほど長い年月の間祭りを絶やさずに続けていくことは、言葉では言い表せないほど本当に大変なことだと思います。

誰かが続けよう!という強い気持ちを持ち、その気持ちに賛同し協力してくれる人たちがいるからこそ、何年もの間ずっと続いてきたのではないでしょうか。

どんくそ祭りがあり続けることで、故郷を離れた人たちが帰省した時に、昔を懐かしみ、慌ただしい日常から立ち止まるきっかけとなり、また明日からがんばろう!と思う活力になると思います。

これからもどんくそ祭りをずっと続けてほしい!!

そう願いながら、岡山県赤磐市を後にしました。

 

※滞在中お世話になりました赤磐市役所まち・ひと・しごと創生課の須波様、どんくそ祭りの責任者の岡本様、様々なお話を聞かせてくださった神主様、優しく接してくださった皆様、本当にありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

 

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