いつからだろう。東京に息苦しさを感じるようになったのは。人に埋もれてうまく歩けない。入りたいカフェは満席で入れない。何より、心が安らぐ場所がない。

34歳で心機一転フリーランスライターになり、少しは自由になった気がしていたけれど、東京にいると不自由を感じることも少なくない。巷では「移住」の波がやってきていて、生まれてこのかた地元・埼玉と東京にしか住んだことがない私は、純粋にまだ知らない世界を体感したいと思った。

だからこそ、柳川市のさすらいワークに懸ける想いも大きいのだ。ラストとなる〜その3〜では、柳川市に身を置く人々にクローズアップ。私が求めていた答えが、ようやく見えてきた気がする。

「心がホッとするアレンジメント」は柳川の空気感があってこそ

「花と暮らし nadena」を営む諸藤(もろふじ)有美さん

どことなく懐かしくて、温かい。そして、キラリと光る女性らしい繊細さを併せ持つ。それが「花と暮らし nadena」に抱いたイメージ。縁側のある古民家でお花屋さんを営むのは、柳川市の隣に位置する大川市に住む諸藤有美さんだ。

年齢が近いこともあり、有美さんに興味を持った私は「インタビューさせてほしい」と懇願。柳川暮らしつぐ会の島田さん(愛称:ユッキーさん)につないでもらい、有美さん×ユッキーさん×私の女子座談会が実現した。

左から有美さん、ユッキーさん、かおり

かおり「有美さんは、どうして柳川にお花屋さんを開いたんですか?」

有美さん「独立して自分のお店を持ちたいと思ったときに、古民家のようなホッとする雰囲気がある場所がいいなと思って。地元の大川市から近い柳川で探していたら、この物件を紹介してもらって、ほぼ即決でした」

ユッキーさん「元々は『縁側があるこの家をお店として使ったらすごくいいよね』って話を柳川のムトー商店というカフェのオーナーさんにしたら、その方が有美さんをつなげてくれたんだよね。ムトー商店は街のハブ的な存在なんです」

かおり「わー!素敵なつながり!!実際にここでオープンしてみて、どうですか?」

有美さん「柳川に観光に来た人が『ここは何ですか?』って尋ねて来て、その流れでアレンジメントを頼まれたり。あと偶然出会った人が、アレンジメントのワークショップを受けに再来してくれることも」

かおり「場所に引き寄せられた偶然の出会い。なんだかワクワクする!」

有美さん「この場所に柳川の空気感が染み込んでいる気がして、ここを選んだんです。この空間に身を置くことで、作品にも柳川のホッとするような安心感がにじみ出たらいいなって。ここはお店でありアトリエだから」

キラキラした瞳で語ってくれた有美さんも、この場所と同じく人を和ませる雰囲気を持った方だなぁ。このあと女子会恒例の恋愛トークでひとしきり盛り上がる。うん、やっぱりときめきは一番のエナジーだ♪

旅人と地元民をつなぐ「まちの縁側」に。育ててくれた地元への恩返し

ゲストハウス「ほりわり」を建設中の島田侑季さん

続いては有美さんの取材にも同行してくれて、今回の滞在で一番仲良くなった(と勝手に思っている)ユッキーさん。日帰り観光で通過になりがちな柳川にゆっくり滞在してもらいたいと、ゲストハウス「ほりわり」を建設中(4月完成予定)の彼女に「地元への想い」をどうしても聞きたかった。

かおり「ほりわりのコンセプトを教えてください!」

ユッキーさん「“まちのリビング”とか“まちの縁側”です。ここは元々祖母の家で、雰囲気を活かして温かみのある場所にしたいなって。地元の染物屋さんや窯元さんともコラボして、柳川のものづくりも紹介したい。ここに泊まって柳川や周辺地域での食事、川沿いの散歩、地元民との交流を楽しんでもらえれば嬉しいです」

かおり「柳川の魅力がギュッと詰まった場所になるんですね!想像するだけでときめく♪」

ユッキーさん「旅人に柳川の良さを感じてもらうだけじゃなく、柳川に住んでいる人たちに改めて地元の魅力に気づいてもらえるキッカケにもなればと思います。当たり前すぎて、私を含めた住民には見えていない良さがあると思うから」

かおり「なるほど。ユッキーさんは大学から神奈川で10年間過ごしていたんですよね。どうして地元に戻ってきたんですか?」

ユッキーさん「ベースに『地元に戻りたい』という想いはあったんですけど、会社員時代に全国を旅していろんな生き方をする人と出会ううちに、気持ちに変化が訪れて。ただ帰るだけじゃなくて、地元で何をするかという『地元でのあり方』を考えるようになって、やっぱり柳川の発展に貢献したいなと思ったんです」

左からユッキーさん、大工のタケちゃん、かおり、デザイナーのスミレちゃん、大工のキョウちゃん

かおり「ゲストハウスを建設するに至った背景を聞いてもいいですか?」

ユッキーさん「実は、この家は売却して駐車場になることが決まっていたんです。でも柳川の魅力を一番伝えられるこの家をどうしても残したくて。購入を決めてくださっていた方や親戚に『地元への恩返しになるようなゲストハウスをやりたい』と正直な気持ちを打ち明けました。そうしたら『そういう気持ちなら、ぜひどうぞ』と言ってくれて。関係者の方々には頭が上がらないぐらい感謝してます」

かおり「なんだかジーンとする。地元への愛って私はあんまり感じたことがなくて、ユッキーさんみたいに地元を愛せるのが心底うらやましい」

ユッキーさん「やっぱり育ててもらったことへの感謝が強いです。あとは非日常と日常が近い柳川の雰囲気が好きだなって。このゲストハウスは目の前が川で、ちょうど船頭さんが歌うスポットなんです。だから縁側で船頭さんの歌を聴きながら日向ぼっこをするみたいな、柳川らしい贅沢ができますよ」

かおり「ゲストハウスが完成したら、絶対泊まりにきます!!」

ユッキーさんのような存在が、柳川の財産だと思えてならなかった。ゲストハウスの完成が待ち遠しいなぁ・・・♪

歴史を残す家々と掘割。その財産を次の世代に受け継ぎたい

シドニーから柳川に移住したバリーさん・恵美子さん夫妻

目の前に掘割が広がる見晴らしのいい古民家に住むバリーさん・恵美子さん夫妻。バリーさんはシドニー大学 建築デザイン都市計画学部の名誉教授でありアーバンデザイナー、恵美子さんは同大学の言語学博士。か、かっこいい!!

お二人は私が滞在した「もえもん家」での移住体験を経て、柳川に移り住んでいる。そんな夫妻に柳川を選んだ理由を尋ねた。

かおり「お二人が柳川に移住体験をしようと思ったキッカケは?」

バリーさん「妻の実家が長崎なので、そこから車で行ける範囲で風情のある家を探していました。いろいろと探すうちに佐賀の物件を見つけて、でもシドニーに住んでいたので家を見に来る前に人手に渡ってしまって。そんなときに『もえもん家』の移住体験を知って応募したんです」

恵美子さん「もえもん家に住んでいた1ヶ月の間に今の家を見つけて、すごく気に入って柳川に定住することを決めました」

かおり「もえもん家での暮らしはどうでした?」

バリーさん「駅からのアクセスも良くて買い物にも困らない。柳川を知るにはベストな場所でした。よく街を散策していたんですが、昔ながらの古民家や城下町の町並が残っていて、それがすごくいい。きっとこの地に住みたいと思う人はたくさんいるはずだと思いました」

かおり「このお宅も趣があって本当に素敵!この場所に住みたくなる気持ちは、とてもよくわかります。柳川に住む人たちは、どんな印象ですか?」

バリーさん「すごくフレンドリー。柳川に移住してから私は3つの新聞に掲載されたんですが、それを見て『新聞を見たよ』とたくさんの方が声をかけてくれて嬉しかったですね」

かおり「2階はリノベーション中とのことですが、どんなふうになるんですか?」

恵美子さん「雰囲気は残しつつ、セミナースペースとして活用したいと思っています。大学教授や建築・都市計画の専門家などを呼んで講演をしてもらい、そしてそのまま泊まってもらえる部屋も用意します」

かおり「セミナー!?すごい!!」

恵美子さん「専門家向けと一般の人向けのセミナー、どちらもやりたいですね。そのためにも、少しずつ地元の方たちと良い関係性を築いているところです」

かおり「お二人はこれから柳川で、どんな暮らしを営みたいですか?」

バリーさん「アーバンデザイナーとして、柳川の良さを伝え残していきたい。遺産を継承するためには、何がどこにあるのかのデータベース化が先決です。学生を巻き込み、プロジェクト化して取り組みたいと思っています」

かおり「お二人の存在が柳川の希望になりますね」

好きなものが増えれば増えるほど、人生は豊かになっていく。愛おしいもの、愛おしい人、愛おしい景色に囲まれて暮らしたら、どんなに幸せな時間が増えるだろう。東京で人波に埋もれて忘れかけていたこと。柳川とそこに暮らす人々が、それを思い出させてくれた。

10年、20年と時が経つにつれ、水の城下町・柳川はより美しく洗練された街に変わるはず。3週間の移住体験を終え、そんな確信に近い希望を抱き、私は佐賀空港から成田へ降り立った。(実は柳川からは福岡空港より佐賀空港のほうが近い)

1年後、私はどこに住んでいるだろう。もちろん柳川も候補地のひとつ。どうか愛おしい人と愛おしい街で笑っていますように♪

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